同じだけど違う椅子たち トネリコ「STOOL」展

   西麻布のル・ベインは友人の緒方慎一郎さんの店「ori HIGASHIYA」があったり、「MITATE」という日本の産物にこだわった店があったりして、僕が覗く機会の多い場所だ。そう広いスペースではないけれど、そこにしっかりと考えさせてくれるモノと空間がある。六本木ヒルズに行くついででもいいので、覗いてみることをお勧めしたい空間だ。

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   テーマは「STOOL」


一見、似ているようで実は異なる「椅子」たち photos by Toshi Asakawa

   そのル・ベインのギャラリーで今、トネリコの展覧会が開かれている。トネリコの力量を示す素晴らしい作品が展示されている。今回のテーマは「STOOL」。背もたれのない椅子。見るまではいろんな椅子があるということかな、と思っていたのだけれど、見れば一目瞭然。同じだけど違う表情をした椅子たちが並んでいた。言ってみれば親戚の寄り合い。

   トネリコは米谷ひろしさん、君塚賢さん、増子由美さんの3人によるインテリアをベースにしたデザイン・ユニット。もちろんそれぞれの経歴があってのことだけれど、海外でも評価の高い作品を発表し続けている。僕とトネリコの付き合いはアルフレックス ジャパンの「AUN」シリーズがきっかけ。以来、付き合っているというより若い才能をなにかにつけ堪能させてもらっている。

   今回の展示でも思ったのだけれど、内田繁さんに学んだ2人の男性に、日本の伝統技術を熟知したコーディネーターとして活動していた女性が加わった強みが大きい。今回の「STOOL」たちも天童木工とその仲間たちとも言うべきチームを彼女が連れて来なければアイデアだけで終わっていたかもしれない。ユニットが自己完結せずに常に外側と連携している。これは大事なことだと思う。

   肝心の「STOOL」たちだが、会場には16種類が2セット用意されている。素材は当然トネリコ。板目と正目のどちらを使うかでそれぞれに表情が変わる。いくつかは観賞用ではなく座るために用意されている(座ってみるとその接着の強力さに冷静に驚いたのだけれど、実は内部でしっかりフィンガージョイントしているとのこと)。そして椅子たちは同じ工程で作られるのだけれど、脚が3本だったり4本だったりするし、それぞれに板の幅が違っていたり、脚の先が角だったり丸だったりする。これだけでバリエーションができて、しかし同じ合板で同じ接着方法で作られている。なんとトネリコのメンバーはひとつのアイデアで16種類の椅子をシリーズとして作り上げるのに短期間で成功したわけだ。

   会場に並ぶ親戚が集まっているかのような、よく似た表情の椅子たち。しかしその顔は実はどこにも似ているところはない。まったく違う表情をしているのが近くで見ればわかる。製造工程が同じ、しかし、結果はこれだけユニーク。同じ植物を同じように育てても違う姿になる。トネリコはそんな個性というものをこうして取り出してみせてくれた。

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