もう一度イチから考える ~山中俊治の大根おろし器~
山中俊治さんとは長いお付き合いになるけれど、去年からは慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでデザインについて若い学生と日々格闘し合う仲になっている。そこでも感じるのだけれど、山中さんという人は何でも根本から、イチから考え直す習慣が身に付いている。
「グッドデザイン賞」金賞に
底面がひとまわり大きく、テーブルにしっかり固定
今回取り上げるのはOXOの大根おろし器だ。2006年度のグッドデザイン賞の金賞を受賞したもので、山中さんらしさのあるデザインだ。大根おろしにこれほどの改良を加えることができるなんて思いもよらない。
まずおろしたものを受け止める容器がしっかりとテーブルに固定できるように底面がひとまわり大きくなり、しかもこれが動かない。容器の内側はつるんとしたABS樹脂なのに対し、外側はもちやすく柔らかいサントプレーンという特殊なゴムを使うという工夫がなされている。水切り用の飛び出した部分が真ん中に用意されていて水切りがしやすい。ちなみにこの注ぎ口の飛び出しと底面の飛び出しはそろっていて、立てて置くことができる。収納にも便利。さらにしっかりと取り付けられるフタが付いている。この容器のまま保存することもできる。
不便に思っている点について考える、改良する方法を考える。それを統合した場合の折り合いをつける。エンジニアの発想に立つデザインというのはこれからの時代、さらに有用になっていくのだろう。
「骨」がある大根おろし器!?
こだわりが感じられる刃
もっとも工夫が凝らされているのは刃の部分だ。写真でわかっていただけるだろうか、刃の大きさが一律ではなく、また、刃の方向がすりおろす方向に対し直角ではない。このため大根がスムーズにおろせるのだそうだ。さらに前後にすればおろせるのだけれど、円を描くようにするときめ細かいおろしができる。刃の間が狭くなるからだ。さらにさらにと文章が続いてしまうが、それほどに工夫が組み合わさっている。
09年5月29日から東京ミッドタウンの2121 DESIGN SIGHTで山中俊治ディレクション「骨」展が開かれる。生物の骨格というのは外観と見事に連携している。必然で貫かれている。デザインもまたそうした骨を持っていると山中さんは考えている。それを展覧会で表現しようと企画したのだそうだ。
この大根おろし器にも同じ思想が入っている。必然となるまで細部が検討され、それが統合されてひとつの道具としての完成した形となる。見ているうちにこのおろし器もまた骨に見えてきた。