「10年後」のためのモノづくり ~THE COVER NIPPON~
この酒器の薄さをまず見ていただきたい。口に当たるあたりは1ミリにも満たないのではないだろうか。ここまで木を薄く挽き、一方は熱を加えて変形させ、さらに漆を塗る。飛び抜けた職人技だ。石川県加賀市の伝統工芸、山中漆器の「彰宣(しょうせん)という工房のもの。僕のスタッフの1人がこのブランドを気に入ってこのところよく手に入れている。
技術者のノウハウとデザインのチカラの「交差点」
職人技が光る「彰宣」の酒器
「能作」の箸置きは、手で自由に変形可能
もうひとつ、スズでできた箸置き。「八」という名前がつけられたもので、手で好きなように曲げることができる。箸置きとして自分の好きな形にして使う。ちょっと曲げただけでグンと表情が出てくる。こちらは富山県高岡市の伝統的な鋳物技術を活かした「能作(のうさく)」のもの。同じスタッフがこのところよくお土産に使っている。
何も彼は北陸まで旅をしているわけではなく、こうした全国の伝統工芸に根ざしたものを売っている店舗が都心にあるのだ。「THE COVER NIPPON」という名前で、東京ミッドタウンの中にある。店に入ってみれば、日本各地に残っている伝統工芸に驚くだけでなく、伝統に根ざした新しい試みに驚きもする。何度行っても見飽きるということがない。
この店は商品を日本各地から発見してくる、取り寄せる、というだけに留まらない。メイド・イン ジャパン・プロジェクトというひとつの名前の元で、株式会社の商業活動とNPO法人の事業支援活動をおこなっている。支援だけでは足りない、販売し実際に利益を出す場も必要だということだろう。THE COVER NIPPONはその販売の場というわけだ。
写真の彰宣の背の高い方は「うすびきカップ」と呼ばれる新しい商品。その技術があるならこういう商品ができないだろうか、とメイド・イン ジャパン・プロジェクトとの話し合いの中で生まれたシリーズなのだろう。石川県の伝統工芸に新しい商品とともに自信も加わったに違いない。
能作のこの箸置きは吉田絵美さんというデザイナーが関わっているそうだ。デザイナーが参加することで今までにない形が生まれる。きっと鋳物師たちがデザイナーにスズの特性の話をし、スズは自在に曲げることができるんだよ、と言いながら音を立てて(スズは簡単に曲がるのだけれど曲がる時にピキピキと音がする。スズ鳴きという)みせたに違いない。鋳物師たちにとってはただの特性だったものが、デザイナーには変化して用を満たす道具はできないかという課題になったのだろう。
10年後の日本のためにするモノ作りの場と方法を今のうちに築いておく。でないと消えてしまうものがたくさんあるに違いない。そう気づいた動きが方々で起きているように感じる。常々思っているのだけれど、伝統工芸の応援にデザインは欠かせない。技術者たちのノウハウとデザインのチカラが組み合わさったところに新しいモノ作りが生まれていく。