「名門レーベル」がソノ気に リスト奏でる「ハーフ美女」
アリス=紗良・オット
『リスト:超絶技巧練習曲集』
録音:08年6月 ハンブルク
UCCG-1440
08年11月26日発売
2500円
ドイツ・グラモフォン/ユニバーサルミュージック・クラシックス
若い頃に芝居をしていた。小劇場運動とか、赤だの黒だののテント芝居が最盛期を迎える直前、テレビはまだ夕方には小休止の時間帯があり、カラー画面になりきれていない頃。いわゆる商業演劇(言い方も古いな)と、新劇が並び立ち、そのアンチテーゼ(これも死語かい?)のようにテントも含めた小劇場運動はあった。その渦中にいたのだが、そこはまた安保を軸にした政治状況の渦中でもあった。
まだ少年に"毛"の生えた程度の僕は、それでも芝居への夢を追い続けたが、大人になりきる直前の24歳でマスコミに鞍替えした。
いま同じ歳の息子がいるが、彼の世代は夢を見る事がないように思える。音楽が好きで、毎日ピアノを弾いている。音に身を委ねることで異次元に心を遊ばせているようにも見える。学校と言う場にまだ居続けながら、人生の軌道を模索している。親馬鹿かもしれないが、彼を見ていると彼に夢を見る力が無いのではなく、夢そのものがこの日本にないのではないかと思えてしまう。
アリス=紗良・オットというまだ20歳のピアニストがいる。名門のドイツ・グラモフォンからリストの『超絶技巧練習曲』全曲でのデビューという、極めて稀なサポートを受けての世界デビュー。ドイツ在住で、日本人の母とドイツ人の父の間に生れた。教育はドイツ式のギムナジウムで受けた。話を聞いたときに、ピアノを弾くことと学業に何の乖離(かいり)も無かったように聞いた。そしてまだ10歳にも満たない頃からピアニストになる夢を追い続けていたとも。羨ましいばかりだった。
その音は伸びやかで、軽やかに超絶技巧を聴かせてくれる。
まだ少女のあどけなさも残るアリス=紗良のピアノには卓越したテクニックと、深い理解、若さとエモーションが同居している。このありように驚く。
いま彼女は母の国・日本で、ツアー中だ。
聴くに価値あり。
【リスト:超絶技巧練習曲集 収録曲】
01 第1曲:〈前奏曲〉ハ長調
02 第2曲: イ短調
03 第3曲:〈風景〉ヘ長調
04 第4曲:〈マゼッパ〉ニ短調
05 第5曲:〈鬼火〉変ロ長調
06 第6曲:〈幻影〉ト短調
07 第7曲:〈英雄〉変ホ長調
08 第8曲:〈狩り〉ハ短調
09 第9曲:〈回想〉変イ長調
10 第10曲: へ短調
11 第11曲:〈夕べの調べ〉変ニ長調
12 第12曲:〈雪あらし〉変ロ短調
日本盤のみのボーナス・トラック:
13 ラ・カンパネラ
(パガニーニによる大練習曲から第3番 嬰ト短調)