「16歳」でプロになった矢野沙織 サックスで「歌う」B・ホリデイ
矢野 沙織
『GLOOMY SUNDAY -Tribute To Billie Holiday-』
COCB-53752
3000円
12月3日発売
SAVOY/Columbia Music Entertainment
ビリー・ホリデイと聞けば、胸のあたりがザワつく。決して好きで好きで聴き倒したと言うのでもないのだけれど、なにか胸の奥の方で、カサブタが剥がれるような少々の痛みと、カサついた感じが蘇る。彼女のバイオは自伝『奇妙な果実』(晶文社 油井正一・大橋巨泉訳)を読んでいただき理解していただくこととしても、最高の女性ジャズ・シンガー、ジャズ・ジャイアンツの1人と言われた彼女の生涯は、一度として幸せな時間はなかったのでないかと思わざるを得ない。薬と暴力と、破滅的なその人生は、痛々しくさえある。だが、彼女の歌は、深く胸に刻まれ離れることがない。代表曲「Strange Fruit(奇妙な果実)」に、シャンソンのダミアも歌った「Gloomy Sunday(暗い日曜日)」、それに彼女の死後、彼女の晩年のピアノマンだったマル・ウォルドロンが彼女の残した詞に曲をつけた「Left Alone」など、一度聴くと忘れることのできない楽曲が一気に蘇る。
ビリー・ホリデイを好きなミュージシャンはたくさんいるが、矢野沙織もその1人だ。わずか16歳でプロ・サックス・プレーヤーとしてデビューした彼女は、ビリー・ホリデイの楽曲に魅せられ、自伝を読み、そしてフェイヴァリット・アーティストの1人としてビリー・ホリデイをリスペクトしている。そして自分にとってのビリー・ホリデイの「歌」を、サックスで「歌った」のがこのアルバムだ。矢野沙織のサックスは、確かにビリー・ホリデイを「歌って」いる。だが、胸のガサつきはない。なぜなら、矢野にとってのビリー・ホリデイは、決して肯定できる人格として存在しないからだ。音楽として、歌い手としてのビリー・ホリデイの素晴らしさを、サックスにのせている。それが、逆にビリー・ホリデイを際立たせる。
ちなみにこのアルバムは「ビリー・ホリデイ没後50年記念企画」として出される。
【GLOOMY SUNDAY -Tribute To Billie Holiday- 収録曲】
1.Don't explain
2.Yesterdays
3.Lover Man
4.Everything Happens To Me
5.Night & Day
6.Summertime
7.Gloomy Sunday
8.Strange Fruit
9.Left Alone