「ネットの即時性が魅力」
元『LEON』編集長・岸田一郎氏に聞く
2008-10-18 02:07:04
ファッション誌『LEON』『NIKITA』の編集長として知られる岸田一郎さんが2008年9月16日、web上に新たなメディアを立ち上げた。富裕層をターゲットとした『KISHIDA DAYS』は、自身が見立てた商品情報を日刊で提供するという試みだ。ただ、岸田さんはWebを取り入れた雑誌『zino』で休刊の憂き目をみている。それなのになぜ、またwebを選んだのか――。
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『zino』というより、『@zino』(webマガジン)の経験は大きかった
――新しくオープンしたコンテンツ『KISHIDA DAYS』。今回もまた、富裕層がターゲットですね。その理由とは?
岸田 ひとつは、僕自身がオールマイティーな編集者じゃないから。もともと出身は世界文化社で、富裕な若者向けの雑誌『Begin』なんかを作っていたわけです。ですから、ファッションのみならず機械式時計や自動車といった、ライフスタイル誌は、まあごく客観的にみると、僕の“かたよった”得意分野じゃないでしょうか。
――そして、ラグジュアリー商品(=贅沢品、高級品)に“ニーズ”があるからでしょうか?
岸田 もうひとつの理由なんですが、いつの時代も富裕層がいるから、ということでしょう。
たとえば、『MEN’S EX(メンズエクストラ)』が創刊したころ(=1993年)は、ちょうどアオキのスーツが台頭してきたころでした。スーツが2~3万円で買えるようになった時期だったんです。そんなときに、社内では『岸田の提案している40~50万円のスーツを買うやつがどこにいるんだ』って言われましてね。
ところが、不況だからって、ベンツが売れない、エルメスが売れない、というわけではないんですよ。必ずいつの時代も富裕層がいる。そういった層をターゲットにしたコンテンツが必要で、その『指南役』になれれば、と考えています。
――とはいえ、すでに雑誌とwebとで展開した『zino』『@zino』(=06年11月に創刊、08年4月に休刊)では、苦戦を強いられましたね
岸田 『@zino』では大きな経験を積んだな、と思っています。
実際のところ、まだ『紙(=雑誌)』という伝達手段は大勢をしめていると思っています。雑誌とネットを一緒にやってみてわかりましたが、広告料金一つとっても、どうしても紙の方が(料金が)高いわけです。
そこで、です。ここに『とっておきの情報』があるとします――これは読者をわくわくさせる、とっても面白い情報のことです。この情報を(ネットか雑誌か)どちらかで発信するかとなった時には、どうしても雑誌に掲載することになる。雑誌を作っている以上、書店で本を買ってもらわないといけないのでね。
そんな理由で、『とっておきの情報』はどうしても雑誌に託すわけです。となると、どうしてもネットは『おまけ』にしかならなかったんですよ。が、今後は『とっておきの情報』すべてをネットで配信していきます。
――今回はネットだけに専念するということでしょうか。この場合、どんなメリットが考えられますか?
岸田 僕は紙(=雑誌)が長かったこともあって、今日手に入れたトピックス(情報)は、最短で1か月半、2か月先の紙面を頭に描きながら、この情報をどうするか考えていました。ところが、ネットだと、今日入った情報は今夜公開してもかまわない。この即時性は魅力ですね。
――サイト内では動画も多用されています。「葉巻講座」「ストールの巻き方」などがありました。動画にも魅力を感じているのではないでしょうか?
岸田 今後、動画はどんどん多用していきたい。雑誌もネットもそうなのだけれど、ラグジュアリー商品の購買者に対して、いかにわくわくさせるコンテンツを提供できるか。それがメディアの役割だと僕は考えています。有効な伝達手段としてネットも使える――そういう時代になってきましたね。
――では、もう雑誌はやらないと?
岸田 いや、もちろん、雑誌を否定しているわけではないですよ。雑誌の見開きにある綺麗な写真は、印刷のクオリティの高い雑誌にしかできないこと。ひょっとしたら、この先、『KISHIDA DAYS』の集大成のようなものを……なんてことになるかもしれないですね。
「読者に対しての影響力が一番の醍醐味」
――『KISHIDA DAYS』の特徴は、なんといっても、岸田さんが自ら紹介するところでしょうね
岸田 ラグジュアリー商品の場合、商品のいい悪いだけで判断できないものなんです。どれがカッコいいのか。これはロジックではないんです。誰かの感性なわけですよ。じゃあいったい誰の感性なのか。不遜ながら『これは岸田の見立てですよ』と言ってしまったほうが明快だと思ったんです。
――では、岸田さんが選ぶ商品には、基準のようなものはありますか?
岸田 基準というよりは、有効なお金の使い方の指南役ということです。そうすれば、業界の活性化にもなりますね。ラグジュアリー商品は、実のところ、放っておいたら『別に買わなくてもいいや』となってしまうものです。メディアによってわくわくさせられて、『買っちゃおう』『どうしても欲しい、買い換えてしまおうかな』というようになればいいなと思います。
――仕事をしていて「面白い」と感じるときはどんな時ですか?
岸田 読者に対しての影響力というのが一番の醍醐味なんです。流行語を作るとか、人が動くとか、ものが売れるとかね。それに加えて、伝達手段が新しくなったので、そこが面白い。今まで『紙』だったものがより簡便な『ネット』に変わってきた。おそらく、今後、ラグジュアリーブランドと一緒にいろんな仕掛けをしていくでしょうね。
――今後の『KISHIDA DAYS』の展開は?
岸田 ただ商品の紹介をするのではなく、リコメンド(=提案)をしていきたい。商品の紹介だけならば、すでにネットの世界にもあるわけですよ。数ある商品の中から、『これが、こういう理由で、あなたにはいいですよ』と。そういう発信をしたいと思っています。
また、商品紹介のさわりだけを『KISHIDA DAYS』でやって、詳細は各ブランドのホームページへ誘導するということもできるでしょう。そうすれば、ラグジュアリーブランドのホームページも活性化していくと思いますが、まだまだ勉強は必要。将来的にはECサイトを、なんてことも考えているんですが、ね。