「無印らしさ」はどこにある? 「なるほど」と思わせる技と知恵

   無印良品で中空耐熱グラスを見つけた。折角なので、ビールを注いだ写真をご覧いただきたい。350mlの缶ビールがここにちょうど入る。中空だから外に水滴が付かない。保冷もできる。これは便利だ。これで499円というのも頑張っている。ビールを注ぐととてもいい形も見えてくる。

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「無印らしさ」を保たないと客は去ってしまう


中空グラスだから、ビールを注いでも外に水滴が付かない

   なるほど、とまず思った。それから、どうしてこの利点を即座に自分がわかったのかを考えた。携帯電話やパソコンが今ではいつもテーブルに載っていたりしている。日常的に水滴に気を使わざるをえない生活を僕たちはしている。そこで、こうしたグラスが登場した。

   実はこのグラスを僕のスタッフの1人が買って便利だと言っていたところで、見てみたいね、買ってきてよ、と言ったら、渋谷の無印良品では売り切れ、有楽町の店でようやく手に入れることができた。

   1年ほど前に良品計画の金井政明専務と対談する機会があった。その時、金井さんは「無印らしさ」をきちんと保たないとお客さんは去ってしまうという危機感を常に持っていると話されていた。

   このグラスのような「なるほど」と感じるものこそ無印らしさなのだろう。無印をミニマリズム(最小限主義)と誤解される危険は特に大きい。使い勝手を想起させる何かが加わっての「無印らしさ」を探していかねばならない。無印の商品開発はけっこう大変な作業だということがわかる。

無印の「なるほど」はアートに一脈通じる


無印良品の開発背景がわかる「無印良品の理由(わけ)」

   そして1年。無印良品から「無印良品の理由(わけ)」という本が2冊登場した。無印の7500点(!)の商品の中からピックアップされた商品の開発理由が紹介されている。深澤直人さんのデザインによる壁掛式のCDプレイヤーも登場している。電源コードを引くオン/オフというのは、音楽を聴くぞと身構えるのではない、音楽との付き合い方を感じる。まさに無印らしさがここに紹介されている(この本こそまさに、なるほど無印良品)。

   深澤さんもその1人だが、無印らしさの奥にはデザインを熟知したアドバイザリーボードがいる。小池一子、麹谷宏、杉本貴志、天野勝、原研哉、山本耀司と錚々たるメンバーだ。無印らしさは、ちょっとやってみました、という気分のものではなくきちんと推敲されたものなのだ。

   ちなみに無印良品では2008年6月13日から23日までを「無印良品週間」としている。無印良品のものづくりの取り組みを知ってもらおうという期間だそうだ。見つめればわかる「なるほど」を手前に引き出して、商品の前に「なるほど」を陳列しているわけだ。

   店舗でもわかりやすく、ひとつの棚にひとつの「なるほど」が置かれているし、ウェブサイトでも「なるほど無印良品」というコーナーが立てられている。見れば、ああそんなこと、なのだけれど、それを見つけ出すのは大変な努力だ。ちょっと店を覗いて、なるほどを感じるのも楽しいかもしれない。

   金井さんはウチはアートはしないですよ、とおっしゃるけれど、無印のなるほどはアートに一脈通じるものがある。それもこのアドバイザリーボードのなせる技なのかもしれない。

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