東芝「敗北宣言」後のDVD 「次世代」より「現行」に注目だ
2008年2月19日、東芝がHD DVD機器の生産中止と次世代DVD事業からの撤退を正式に発表した。今後、ブルーレイ(Blu-ray)機器の発売予定はないとしていることから、DVD(&HDD)レコーダー事業自体の継続を危ぶむ声も聞かれる。販売済みのHD DVDをブルーレイ製品と交換する小売店がでるなどの余波が続いている――。
東芝の"ハラキリ"をどう見るべきか
発売後2ヶ月で早世した悲運のHD DVD機「RD-A301」。ネット上では価格が急騰
今年はじめ、米大手映画会社がこぞってブルーレイ支持を打ち出した段階で、次世代DVD企画争いはほぼ勝負がついていた。あとは東芝の退き方の問題だったのだが、その時点では、誰もがこの件を忘れかけた半年後ぐらいに「HD DVD終了のお知らせ」がひっそりと出るような展開、いわばソフトランディングをなんとなしに想像していた筆者であった。
HD DVDレコーダーは製品化されたばかり――「世界初」の発売はわずか半年前――であり、旗振り企業としての面目や、製品購入者を慮れば、そんなふうに思ったのも無理はないだろう。
それからすると、今回の発表には追い詰められた戦国武将がひと思いにハラを斬って果てたような印象がある。かつてのHD DVD軍の大将は、いまやメディア中で格好のさらしクビである。いささか性急な自害は身勝手な行動にも映るし、名目だけの製造販売を継続することによるさまざまの「被害」を早めに終わらせたとも言える。潔い最期――だったのだろうか。
いずれにしても、ごく少数とはいえ、HD DVDユーザーは存在する。撤退直前まで「強気」の発言・姿勢を崩さなかった東芝には、HD DVDユーザー最後の一人まで最大限サポートする良心が、最低限求められるだろう。
いま、あえてブルーレイを買う理由もない
ついに規格は一本化された。じつはDVD(レコーダー)機器の販売台数はここ数年伸び悩んでいるが、その"実績"を発表してきた社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「2011年まで二桁伸張」と歓喜の"予測"を謳っている。売れなかったのは、規格争いのせいであり、もう買い控えは終わるというのだ。
だが、現状のブルーレイはまだ付加価値的な扱いで、搭載機種は比較的高額。メディアも1枚700円程度と高価だ。「べつにいまのDVDの画質で不満はないけど」という大多数のユーザーにとって、今すぐ買わなければいけないモノではない。極論すれば、あってもなくてもどちらでも良いのだ。そもそも大容量ブルーレイの一番の売り文句は「ハイビジョン映像をそのまま記録できる」だった。しかし、録画エンコーダーの進化などによって、現行DVDでもハイビジョン録画は可能になっている。
現行DVDでの「ハイビジョン録画」を可能にする新エンコーダー
松下の「DIGA DMR-XP12」は「H.264/AVC」搭載の低価格機種。実売5万円程度
今冬から、松下(パナソニック)やソニーの「H.264/AVC」エンコーダーを搭載した機種の普及が進みつつある。ブルーレイ録画機の多くは10万円前後するのに対して、H.264/AVC方式は5万円程度の非BD機でも採用されるなど、いまが"旬"の臭いが漂っている。
詳しい説明は省くが、H.264/AVCは従来の録画方式であるMPEG2よりも圧縮効率がよい。したがって、松下の宣伝によれば、H.264/AVCでは、画質をさほど損なうことなく「フルハイビジョン放送を(最大で)4倍長く録画」できることになる。
気になるのはDVDでの中途半端な録画時間(松下の場合、一層DVD-Rで約1時間40分)と互換性の点。前者については、BDよりは安い二層DVDを使えば約3時間確保できる。また、ブルーレイ陣営で策定された「AVCREC」規格に基づいており、ある程度の互換性、継続性は担保されそうだ。なにより、デジタル放送はHDDの容量イーター。それを抑えられる意味は小さくない。
いまDVDレコーダーを買うならば、次世代規格よりずっと地味――でも、リーズナブルな価格ですぐに役に立つ技術に注目したい。