増殖する「工場萌え」ブーム 企業の側には戸惑いも
「工場萌え」がブームになっている。「神社仏閣や富士山を愛でるようにコンビナートやプラントを眺め楽しむ」人たちが増えている。工場をテーマにした写真集やDVDが発売され、実際に工場を見学するツアーまで企画されている。だが企業の側には、「萌え~」な人々に対して、ちょっと戸惑いもあるようだ。
DVDで工場の美しさをじっくり「鑑賞」
DVD「工場萌えな日々2」には西日本を代表する工業地帯の映像が収録されている
「工場萌えな日々2」。こんな奇妙なタイトルのDVDが2007年11月23日、エースデュースエンタテインメントから発売された。派手なナレーションやレポーターの解説は一切なく、工場の群れをただ淡々と映し出す。工場の美しさを「鑑賞」してもらうためのDVDだ。
このDVDは、工場マニアとして有名なwami氏のブログ「工場萌えな日々」をもとに制作された。関東を中心にした第1弾に続き、第2弾では西日本の代表的な工業地帯である四日市や水島、坂出などの工場群を撮影した。
第1弾の発売数は約3000枚。このようなマニアックなDVDとしては異例のヒットとなった。「現在も注文が続いている」(エースデュースエンタテインメント)とのことで、第2弾の発売につながった。
購入しているのは、工場に「萌え~」な人々だ。富士山や神社仏閣を愛でるのと同じような感覚で、コンビナートや製鉄所の持つ美しさをじっくり堪能するのだ。
「工場の悪いイメージを正常化したい」
千葉県が主催した「工場見学ツアー」にはたくさんの人たちが参加した
このような「工場萌え」ブームを意識して、自治体や企業の中には、工場見学ツアーを企画するところも出てきている。ふだんは馴染みが薄い石油や鉄鋼などの工場について、少しでも関心を持ってもらおうというわけだ。
千葉県は07年11月22日、出光興産千葉製油所やJFEスチール東日本製鉄所の協力を得て「工場見学ツアー」を企画した。ツアーは予想以上に大勢の参加者が集まる盛況。千葉県観光課は、
「敷地内の撮影禁止区域や工場全体が危険物指定を受けている点など課題をクリアしたうえで、08年度も引き続き実験的にツアーを行っていきたい」
と意気込んでいる。
ツアー企画のアドバイスをした八馬智・千葉大学大学院工学研究科助教も
「古くは公害問題、最近では地球温暖化と、工場を所有する企業には何かと悪いイメージがつきまとい、産業全体のブランドイメージの低下につながっていた。見学ツアーを通じて、そんな悪いイメージを正常化していく必要がある」
と、工場見学ツアーに込められた狙いを語る。
「萌え~」なツアー客に戸惑う企業
陽が落ちても煙を上げ続ける東京湾沿いの工場。その夜景は美しい
だが、こうした自治体や企業の期待と「工場萌え~」なツアー参加者の思惑はすれ違っているようだ。
「企業さんは、教育的なもの、例えば、省エネとか環境問題への取り組みとか、わが社もこんなにやってますよ、というのをツアー客に感じてほしかったんだと思います。ところが、参加したお客さんは、みな『萌え~』の人ばかりなんです。『萌え』の方は、そういう企業の担当者の説明は上の空で、ただ、ただ、プラントの外壁やパイプラインをうっとり眺めているんです」
ツアーに関わった千葉県の担当者はこう漏らす。ツアーを企画・実行するなかで、受け入れる企業側の考えとツアー客の大きなギャップを感じたというのだ。
しかし、何事もギャップを埋めようとしなければ、前へ進めない。八馬助教は
「工場側には戸惑いもあったようだが、だからといってネガティブに捉えるのではなく、見学ツアーを積極的に活用するよう努力すべきだ」
と話している。