音声を40ヘルツに変調するガンマ波サウンドスピーカーが、認知症患者の暴言や暴力・介護拒否などの症状を改善させる――。医療法人の国立あおやぎ会(東京都国立市)が2024年11月28日、その検証結果を発表した。
「同じことを何度も聞く」ことが「群を抜いて改善」
国立あおやぎ会は、介護老人保健施設「国立あおやぎ苑」(東京都国立市)で2023年12月、テレビなどの音声を40ヘルツに変調する「ガンマ波サウンド」を聞けるスピーカー「kikippa」を導入。認知症患者に対するケアの新たなアプローチとして、効果検証を行った。
米マサチューセッツ工科大学の発表によれば、40ヘルツの音と光の刺激をアルツハイマー型認知症モデルのマウスに与えたところ、学習能力と記憶能力の向上などの効果があったという。この研究が「kikippa」の検証実施の背景にあった。
効果検証は、認知症フロアの患者25人(男性4人・女性21人、平均年齢88.56歳)と、一般病床の入所者31人(男性6人・女性25人、平均年齢89.26歳)を対象に実施。スピーカー設置開始時の23年12月と設置後の24年6月を比較した。
効果の評価には、「中核症状」(記憶障害や集中障害、遂行機能障害など)をHDS-R(長谷川式認知症スケール)という認知症のスクリーニング検査を、「周辺症状」(暴言や暴力、介護拒否など)をDBD-13(認知症行動障害尺度)という評価指標を用いた。
その結果、「中核症状」を評価した平均の点数には有意な変化は認められなかった。一方、「周辺症状」を評価した平均点数は3.00ポイント低下し、改善が認められたという。「周辺症状」が改善されたことで、患者だけではなくスタッフにも笑顔がみられるようになり、現場の雰囲気が明るくなったという。
国立あおやぎ苑の施設長・武田行広氏によれば、DBD-13を構成する13項目の中で「同じことを何度も聞く」という項目が「群を抜いて改善した」。その他の「日常的な物事に関心を示さない」など12項目については、以前に比べて約0.9倍の点数に変わり、これも良くなったという。
「従来のアプローチを覆すような印象がある」との評価
発表会では、実際に「kikippa」を使って音声を流した。
流れている映像の音声を40ヘルツに変調すると、普通の音声に常にノイズが入っているように聞こえる。武田氏によると「スタッフも患者も、はじめは違和感」があったが、1週間ほどで順応し、自然と受け入れられるようになったという。
認知症フロアに入所する患者の家族は、kikippaを導入した後の様子について、「会うたびに元々の状態に近くなってきたと感じます」と話した。
「よく話すようになった。明るくなった。あれが欲しい、これが欲しいという要望も言ってくれてうれしい。何も言ってもらえないのは、寂しいです」
作業療法士として働くスタッフも、患者の帰宅願望や徘徊が減ったと語る。
「認知症の症状の改善は、膨大な時間とマンパワーを要する印象があるのですが、マンパワーを割くことなく、スピーカーを置いて流しておくだけで改善したので、従来のアプローチを覆すような印象が持ちました」
別のスタッフの話では、患者らが食堂に集まる時間が長くなった印象を受けているという。例えば体操が始まると、以前は体操が苦手な患者は部屋から出て行っていたが、最近では参加率が上がっているとの話だった。