早大「内ゲバ事件」描く、映画「ゲバルトの杜」 池上彰、内田樹、佐藤優さんら登場

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   約半世紀前に早稲田大学内で起きた「内ゲバ事件」をテーマにした映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」が完成、2024年5月末に劇場公開される。第53回大宅壮一ノンフィクション賞(2022年)を受賞した元朝日新聞記者・樋田毅さんの『彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠』(文藝春秋)が原案になっている。

  • 「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」
    「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」
  • 「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」

革マル派に支配されていた

   事件は1972年11月8日、早稲田大学構内で起きた。文学部2年生の川口大三郎さんが自治会を握る革マル派の学生たちに拉致され、殺された。革マル派は、川口さんを対立する中核派の学生と疑い、凄惨なリンチを加えていた。

   多くの一般学生は、早稲田祭の2日後に起きたこの事件に衝撃を受け、革マル派を糾弾する集会が続いた。数千人規模の学生が集まった。川口さんの友人たちは、川口さんが部落問題などに関心は持っているものの、中核派ではないということをよく知っていた。革マル派はいったん謝罪の姿勢を示したが、やがて巻き返し、キャンパスは再び革マル派に支配される――というのが当時の状況だ。

   この事件は、そのころ同じキャンパスで学んだ多くの早大生には忘れられないものだった。村上春樹さんは、『海辺のカフカ』の中で川口さんをモデルにした人物を登場させている。直木賞作家の松井今朝子さんの『師父の遺言』にも関連の記述がある。ともに事件当時、文学部に在籍していた。

証言と短編ドラマで構成

   映画は、殺された川口大三郎さんを知る当時の関係者や、ほぼ同世代の評論家、池上彰さんや内田樹さん、共産主義運動に詳しい佐藤優さんら知識人たちの証言と、早大出身の劇作家、鴻上尚史さんによる短編ドラマ部分で構成されている。

   監督は「三里塚に生きる」「きみが死んだあとで」など「大衆闘争」に関する映画で知られる代島治彦さん。上映時間134分。

   映画の原案となったノンフィクション『彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠』を書いた樋田毅さんは事件当時、早稲田大学文学部1年生。殺された川口さんの1年後輩に当たる。直接の知り合いではなかったが、語学のクラスが同じだったこともあって、生前の川口さんを間近で見かけたこともあった。

もう一つの「理不尽な殺人事件」

   事件が起きるまで、樋田さんは、政治活動とはほぼ無縁だった。体育会漕艇部に属し、新宿のマグドナルドでバイトをしていた。しかし、理不尽なリンチ殺人事件が樋田さんの正義感に火をつけた。あっという間に、革マル派を糾弾する一般学生側のリーダー格になり、奔走。一時は革マル派自治会執行部をリコールするところまで追い込んだ。

   しかし、キャンパスが再び革マル派支配になると、今度は樋田さんが革マル派に狙われる立場になった。鉄パイプで何度か襲撃され、重傷を負ったこともある。いったん大学院に進んで、78年、朝日新聞記者になった。

   そこで樋田さんは、もう一つの「理不尽な殺人事件」――「赤報隊」による「朝日新聞阪神支局襲撃事件」の専従取材班に加わることになる。時効までの16年間、さらにその後も犯人を追い続けた。

   2018年2月にこの事件をテーマにした『記者襲撃』(岩波書店)を出版。NHKスペシャルは18年1月末、2回に分けて「未解決事件File.06 赤報隊事件」を放映し、草なぎ剛さんが真相に迫る記者役を演じた。モデルになったのが樋田さんだった。

100人以上の犠牲者

   戦後の日本では、1970年代半ばごろまで、学生運動が社会に大きな影響を与え続けた。関連する映画作品もいくつか作られている。

   1960年に公開された大島渚監督の「日本の夜と霧」は50年代の学生運動がベースなっている。大島監督自身、京都大学時代は京都府学連委員長として学生運動に関わっていた。映画公開時は、安保闘争が激化していたこともあり、作品は上映4日目にして打ち切りに。大島監督はこの上映中止に抗議し、松竹を退社した。そのことでも映画史に残る作品となった。

   60年代後半以降の学生運動を扱ったものでは、代島監督の「きみが死んだあとで」(2021年公開)が圧倒的なリアリティを持つ。1967年、第一次羽田事件で亡くなった京都大文学部1回生、山崎博昭さん(当時18歳)を主人公にしたドキュメンタリー作品だ。

   作家の三田誠広さんや詩人の佐々木幹郎さんら高校・大学の同級生、元東大全共闘議長の山本義隆さんなど当時の活動家が多数登場し、山崎さんの死が同時代の学生や学生運動に与えた衝撃を証言する。3時間20分という超長編だが、まったく長さを感じさせない濃密な作品だ。

   このほか、小川紳介監督の「圧殺の森――高崎経済大学闘争の記録――」、日大全共闘映画班製作の「日大闘争の記録」、さらには、「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」などのドキュメンタリーも話題になった。劇場公開の実写作品では第82回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画第3位になった「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(若松孝二監督)がある。

   学生運動は、全共闘運動の終焉と、72年の連合赤軍事件で急速に低調になって一般学生は離反。逆に、過激派セクト間の内ゲバが激化していく。

   全共闘運動や連合赤軍に関しては関係者の証言などが多数残されているが、100人以上の犠牲者が出たとされる内ゲバ事件ついては、資料が少ない。したがって、今回の「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」のように、「内ゲバ」を扱った映画作品は極めて珍しい。

   映画は5月25日、東京・渋谷のユーロスペースで公開される。

姉妹サイト