デ・キリコ、10年ぶりの大回顧展 形而上絵画から、彫刻、舞台衣装まで

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   20世紀を代表する画家の1人、ジョルジョ・デ・キリコ(1888~1978)の大規模な回顧展が2024年4月27日から東京都美術館で開かれる。初期から晩年の作品まで100点余りが公開される。

   「形而上絵画」で有名になり、シュルレアリスムの先駆者としても活躍したデ・キリコ。多くのアーティストに影響を与えてきた謎めいた作品の数々を、身近に見ることができる貴重な機会だ。

  • デ・キリコ展
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「長い影」を引きずる

   デ・キリコの両親はイタリア人。生まれたのはギリシャ。その後、ミュンヘンに移り、美術学校に通う。ニーチェの哲学などに影響を受けた。

   1910年ごろから、「形而上絵画」と呼ばれる作品を描き始める。いわゆる前衛的な絵画だ。画面に現れるのは、実際にはありえない非日常・非現実の光景。伊の広場のようなところで、目鼻のない彫像がたたずんでいる――。建物やマヌカン(マネキン)はたいがいデフォルメされ、時間が止まったような画面の中で、人も事物も「長い影」を引きずっている。

   デ・キリコの作品を特徴づけるのは、この「長い影」だ。作品によっては画面の3割近くが「影」で覆われている。デ・キリコはなぜ「長い影」にこだわったのか。東京富士美術館のウェブサイトによると、(影は)「現実の事物の背後にあるメタフィジカル(形而上的)な領域を暗示している」。

   謎めいた作品群は、著名な評論家から高く評価され、「形而上絵画」のリーダーとして一躍注目される存在となった。

シュルレアリスムの先駆者

   現実をデフォルメし、非日常の世界を描いた画家は少なくない。サルバドール・ダリ(1904~1989)やルネ・マグリット(1898~1967)などなど。のちにデ・キリコも参加したシュルレアリスムの画家たちの多くは、そうした設定を好んだ。

   デ・キリコが「形而上絵画」を描き始めたのは1910年ごろから。シュルレアリスムが盛んになるのは1920年代なので、デ・キリコの先見性がわかる。年齢的にも、ダリやマグリットよりも少し年長だ。第一次世界大戦をはさんで、キュビスム、ダダイスム、シュルレアリスムなど新たな芸術運動が沸き起こった20世紀前半。デ・キリコはそこで大きな役割を果たした。

   見る者の想像力に働きかける不思議な作品群は、日本の著名な画家たちにも影響を与えたことが知られている。

『ブラック・ジャック』にも「キリコ」

   「キリコ」という名前は、日本人だとしてもあまり違和感がない。そのせいか、日本の漫画やアニメなどにも、同じ名前がよく登場する。特に有名なのは手塚治虫の医療漫画『ブラック・ジャック』に出てくる「ドクター・キリコ」。安楽死の必要性を信念とする元軍医、という想定のキャラクターだ。いわば「陰影のある人物」として描かれている。

   「ブラック・ジャック」の登場人物の名前について研究した「『ブラック・ジャック』命名考」というウェブサイトは、「ドクター・キリコ」という名前について、「シュルレアリスムの画家、ジョルジョ・デ・キリコを由来とすると考えたい」と書いている。

   日本での大規模なデ・キリコ展は約10年ぶり。絵画に加えて、彫刻や挿絵、舞台衣装のデザインなどを世界各地から集めて、初期から晩年までのデ・キリコの創作活動の全容を紹介する。東京会場は8月29日まで。そのあと、9月14日から12月8日まで神戸市立博物館に巡回する予定だ。

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