【すばらトゥーン】
スマートフォンで読むのに最適化されたフルカラーの縦読み漫画、「WEBTOON」。韓国発のコンテンツだが、昨今は国産作品の台頭もめざましい。
ナンバーナインが運営するWEBTOON制作スタジオ「Studio No.9」の漫画編集者・遠藤さんをメインパーソナリティに迎え、ツイッター(現、X)のスペースで「国産のすばらしいWEBTOON作品とホットトピックを紹介する番組」を実施。記事では模様をダイジェストでお届けする。
第八回のゲストは、WEBTOONネーム担当や漫画の現場メンターとして活躍中の、まいきーさん。誰もが知る、いくつもの有名な漫画作品の制作現場にアシスタントとして携わり、専門学校での講師経験もある人物だ。横開き漫画とWEBTOON、双方に精通している立場で数々の見解を説いてくれた。
主人公なのに序盤はほぼ動きナシ!?
まずは、まいきーさんがおすすめする国産WEBTOON作品の紹介から。
あらすじ: 主人公・新城戒は、昼は普通の高校生、夜は裏社会に生きる暗殺者という、2つの顔を持つ少年。ある日、新城は「クラスごと」まとめて異世界に転移してしまう。しかも、魔王を倒すために召喚された「勇者候補」だと告げられて......
主人公が突如「異世界へ転生」するのは、WEBTOONではよく見られる展開。ただ、同作は「クラス単位」で転生しており、まいきーさんは「勇気が要る、チャレンジングな試み」と指摘する。それはなぜか。
まいきーさん「WEBTOONでは『読みやすさ』が重視されます。序盤から、いきなり大人数を出すのって難しいんですよね」
遠藤さん「主人公の活躍に終始して、仲間がいないケースが少なくないですからね」
WEBTOONは一気読みより、「毎日1話ずつ」タイプの人が多いため、複数キャラのストーリーが同時並行すると、読み手の混乱を招きやすい。つまり、序盤は主人公(およびその周囲)にスポットを当てるのが定石なのだ。
ただ同作は、初めからまとまった人数が出てきても「わかりやすいキャラクター配置になっている」と遠藤さん。登場するクラスメイトたちは「委員長」や「優等生」、「不良」に「ギャル」といった、イメージしやすいタイプ・性格付けがなされているので、異世界で各々が「こっちで暴れたい」「帰りたい」と自由に動いても、物語についていきやすい。
主人公も「現実世界において暗殺者」という強い個性を持つので埋もれない......と思いきや、七話くらいまで流れに身を任せ、地味な行動ばかり取るという。WEBTOONの王道とされる流れに対し、逆張り的な挑戦をいくつも取り入れている作品だ。
続いて、遠藤さんのおすすめは下記の通り。
あらすじ:ドラマ撮影の制作部にて、制作進行として働く主人公・俵米子は、おっちょこちょいな性格だが、ロケ弁への愛は誰にも負けないほど。ロケ弁を通じ、現場の士気を高めるために奮闘する。
単なるグルメ漫画ではなく、「お仕事モノ」要素やヒューマンドラマも楽しめる作品だという。LINEマンガの作品ページには「史上初のロケ弁マンガ」と説明がある通り、これまでにない着眼点であるようだ。まいきーさんは、人が興味を持ちやすい「食」ジャンルを扱っていてストレスフリーに読めるとし、そのうえで「ネタにしても絵柄にしても、WEBTOONにおもねっていない」と話した。
さらに、作中に登場するのが「実在するロケ弁」である点も魅力。話繋ぎにあたる、いわゆる「おまけ漫画」のようなページにも「実在のロケ弁写真」が出てきて、楽しませてくれるそう。ただ、遠藤さん曰く「ロケ弁を注文する時には注意が必要」。詳細はスペースにて(28:17~)。
「WEBTOONの個人制作」可能性を徹底追求
続いて「WEBTOON HOTPIC」。今回取り上げたのは下記の2トピックだ。
1.アニメ「俺だけレベルアップな件」ぶっちゃけ面白い? 反響は?
2. 「Amazon Fliptoon」
1は、24年1月に放映開始した「俺だけレベルアップな件」のテレビアニメについて。18年に連載スタートした韓国発の作品で、WEBTOON初のアニメ化を果たした。まいきーさんも遠藤さんも、「5年以上前に始まったWEBTOONなので、昨今とは作りが違う」としながらも、「クオリティが高く、面白い」という感想で一致。特に遠藤さんは、原作が完結しているからこそできるアニメ設計だと指摘している。いったいどういう意味なのか(33:04~)。
2は、フルカラーの縦読みマンガに特化したサービス「Amazon Fliptoon」が、1月24日から「縦読みマンガ大賞」を開催している、という話題。賞金総額1億円で、プロ・アマを問わない。個人でも応募できる。遠藤さんはすばらトゥーン第二回で、個人作家が制作したWEBTOONにも優れたヒット作品があるとし、「個人とスタジオとでは、作り方も強みの生かし方も違う。個人だと新しいアイデアや手法をスピーディーに試せる」と期待をにじませていた。
とはいえ、まいきーさんは「WEBTOONはチーム制でやるのが、一応のスタンダード」と話す。漫画は続くものであり、定期的なペースで手掛けるのは大変。「一人で作るのは可能だが、まあまあハードルはある」からだ。ましてWEBTOONは「フルカラー」が珍しくなく、原作、作画、着色といった各工程を単独で担い、ハイクオリティな作品を連載し続けるのには限界がある。
つまり、個人でやっていくのであれば戦略が不可欠。例えば、世界的人気作「俺だけレベルアップな件」は、鮮やかなカラー(塗り)が作品の魅力の一つ。同作レベルの着色をしていないことが「マイナスにならないような作品づくり」をする必要があるだろう、とまいきーさんは考える。
そのうえで、まいきーさんはクリエイターにWEBTOONの話をする時、「仕事の仕方としての選択肢があるよ」と声をかけるという。漫画は「原作」と「作画」で担当が二つに分かれることは珍しくない。シナリオとネームのどちらかが負担になりすぎて、制作が遅くなるのであれば、WEBTOONを分業で手掛ける道がある、と提案する。苦手な工程は誰かに委ね、得意分野で自分の強みを生かす戦い方もある、と伝えるのだ。
ただ、漫画のカラー担当者はまだそこまで数が多くないため、アニメやゲームのような「演出的なカラー」を塗った経験がない作り手がほとんど。分業制では、自らの担当箇所が終われば次へバトンをパスしていくので、些細な認識違いによって全体進行に遅れが出るケースもある。「自分だけがわかっていればよい」わけではない。
そうした苦労とやりがいのある現場で、まいきーさんは「ネーム担当」としてどのような点に注意し、説明を工夫しているのか。実践的なアドバイスはスペースにて(57:55~)。