「みんなが空気を読んだらどうなるか」
小澤さんは、父のように、特に「政治」には関与はしていない。しかし小澤さんの兄でドイツ文学者、昔話の研究者と知られた小澤俊夫・筑波大名誉教授は、少々違う。秘密保護法、安保法制、共謀罪などが問題になったときは、しばしば自身のブログやインタビュー取材で、危惧する発言を続けている。
著書『日本を見つめる』(小澤昔ばなし研究所)の小見出しは、「マスコミの報道がおかしすぎる」「『改憲まっしぐら』をいかにしてくいとめるか」「政治家の質の低下と無責任」「権力者はすべてを隠す」「みんなが空気を読んだらどうなるか」などが並ぶ。
その中の一つ、「過去の記憶を残そうとするドイツ、消そうとする日本」という一文はこんな感じだ。
「ドイツが国内のあちこちで強制収容所を保存・公開し、ホロコースト警告記念石碑群を首都ベルリンの中心部の広場に並べて過去の罪を反省し、反省の証しとして世界に示しているのに比べて、日本政府が必死になって保存し、首相や閣僚が参拝してその存在を世界に示そうとしているのは、なんと靖国神社である。靖国神社が、天皇崇拝と結びついて、日本の軍国主義の中心装置であったことは世界に知られている。そればかりか、東京裁判でA級戦犯として処刑された戦争責任者たちが合祀されていることも知られている」
「これらの事実を冷静に見れば、世界が日本を見る目と、ドイツを見る目がまったく違うことは明らかであろう」
クラシック音楽の本場は独やオーストリアだ。小澤さんは現地で、兄の憂慮と父親譲りの心意気を反芻することがあったかもしれない。