「逃亡」「浮浪」「逃散」「逐電」「出奔」
急に世間から姿を消す人は、大昔から存在した。古くは奈良時代。農民らの「逃亡」や「浮浪」が多発した。律令体制の重い税負担から逃れるためだった。中世以降、村民が丸ごと村を捨てる「逃散」も頻発した。これも年貢が払えない、などの理由が多かった。
江戸時代は、何らかの理由で「逐電」や「出奔」する人がいた。「逐」は「追う」、「電」は「稲妻」のこと。「逐電」とは、稲妻を追いかけるかのように素早く姿をくらますという意味だ。「出奔」は、武士の失踪を指す。
高度成長の余波で、世の中が混とんとしていた1960年代には、「蒸発」が社会問題になった。仕事を求めて、地方から大都市圏に出てきた人が、いつの間にか消息不明になる。年間の行方不明者は約8万人から10万人近くまで増えていた。
67(昭和42)年には、今村昌平監督の映画『人間蒸発』が公開された。実際に失踪したセールスマンの行方をその婚約者と共に追う、というドキュメンタリー設定の作品だった。キネマ旬報第2位になるなど高く評価された。68(昭和43)年には「蒸発のブルース」という歌も登場した。