「置かれた場所で咲きなさい」とは言うが
ハキハキとした声に話し口調、明るい人柄ではあるが、横田さんがこれまで辿ってきたのは、印象と裏腹に苦難多き道だ。
小学4年生の頃、演劇集団キャラメルボックスの舞台を見て「私もこの世界に、この作品の中に入りたい」と心惹かれるも、現実は勉強漬けの日々。教育熱心な父親によって、「1日にどこの勉強をやるか、教科書のページさえ管理されていた。あまりに厳しすぎて勉強嫌いになった」ほど。
金融関係への就職を望む父親の後押しで、仕方なく大学の経済学部に入ったものの......
「性格がおおざっぱなんですよ。銀行とか、1円でも違ったらだめじゃないですか。この性格で金融に行ったら周りに迷惑をかけるので、無理だと(笑)」(横田さん)
そこで、自身が興味を持つ分野に就職しようと方向転換。当時はベイブレードが好きだったため、関連会社の面接を片っ端から受けたが――全滅。アルバイト先の個別塾に就職したが、激務のあまり体調を崩して退社。今度は地元にラジオ局ができると聞いて再就職し、ラジオに関わる仕事全般を手掛けるも、1年半でやむなく退社する羽目に。
そんな時「これに落ちても、私はもう何も失うものがない」と、やけっぱちで参加したオーディションが、今に至る道を切り拓いた。2021年に行われた、ファン参加型オーディション「Radio Star Audition vol.3」(主催:ミュージックバード)だ。
投票数では9人中8位となり、グランプリは獲れなかったが、深夜番組の担当MCの権利が付与される「ミュージックバード賞」を受賞。送ったデモテープが審査員のDJ Nobbyさんの耳に留まり、経済学部出身である点も相まって、エンタメ&BIZ情報バラエティ「週刊Nobbyタイムズ」のアシスタントに抜擢された。図らずも、本意ではないながらにやってきた「経済の勉強」が、横田さんを再びラジオの世界へ導いた。
自身の歩みを、横田さんはこう振り返る。「『私は、ここで活躍したい』と思っても、うまくいかなかった」。「置かれた場所で咲きなさい」というが、「置かれた場所で咲く」のはもちろん、「咲き続ける」ことがそもそも難しい。
「ただ、『置かれた場所で咲こうとする努力』は大事ですよね。その場所で咲けなくても、努力を見ていてくれた人が『その人が素敵に咲けるところ』に連れて行ってくれることが多い」(横田さん)
山下さんも、似た経験を持っているようだ。キャラクターデザインの道を志して美大へ入るも、自分より実力が秀でている学生が非常に多くいる現実を目の当たりにし、「入学初日から、夢がぶち壊れた」。しかし現在では、映像作家として才能を開花させている。思い描いた通りにいかなくても挫折せず、やるべきことに愚直に励む大切さを、二人はそれぞれの言葉で訴えていた。
山下さん「『ラジオ』と『塾講師』のように関連付きそうにないことでも、やったことって何かしらくっついてくるんですね」
横田さん「自分の人生を『正解にする』んだ、って思いましたね。あの時あれをやっていれば......と思うことはありますが、でもその代わりにやっていたことがあるはずで、それが強み・個性になる気がします」
スペース終了後の二人に話を聞いた。今回は「勉強」というテーマを掲げていたが、山下さんは、裏テーマが「希望の役職ではなくても全力を尽くす」だったと話す。そしてこれは、「クリエイター界隈への救いになれる言葉かなと思う」。
「思い通りのクリエイター像になっていなくても、尽力すれば思いも知れぬ人が頑張りを見てくれていて、きっとその人が手を差し伸べてくれるハズ。それを体現したのが横田さんだというのが、より説得力と安心感を際立たせてくれました」
横田さんは、自分の当たり前を疑う必要性に気づいたそう。
「自分が当たり前に知っていると思っていることが、案外他の人にはそうでなかったり、また逆も然りといったりすることがあるんだなと改めて感じました」
次回の作リエは、2024年1月24日実施予定。