インターネットの時代になって、有力な政治家にはすぐに「あだ名」がつけられるようになった。最近、そのターゲットになっているのは岸田文雄首相だ。政権の支持率が低下する中で、「あだ名」も次第にシビアなものになっている。
「日本メガネベストドレッサー賞」を受賞
岸田首相は2021年10月に就任した。当初のニックネームは「キッシー」だった。「親しい仲間からは『キッシー』と呼ばれる。そう呼んでもらえれば大変ありがたい」と、記者団に自らPRしていた。
ところがしばらくすると、「検討使」というあだ名がささやかれるようになる。国会答弁などで、「検討します」という発言が繰り返されるようになったからだ。奈良時代の「遣唐使」をもじったものだった。
さらに少子化対策や、防衛力増強に乗り出す中で、新たなあだ名が浮上する。「増税メガネ」だ。これらの政策を推し進めるには巨額の財源が必要となるが、明確には示されない。それは、将来の増税をもくろんでいるからではないかとの疑念が浮上したことによる。
岸田首相は過去に、「日本メガネベストドレッサー賞」を受賞したことがある。眼鏡をいくつも持っていて愛用している。そんなこともあり、「メガネ」と「増税」を組み合わされたあだ名ができたようだ。
「ばら撒き眼鏡」や「外面メガネ」
最近は、さらに新たなあだ名が取りざたされている。一つは「懐石メガネ」。
総務省は11月末、2022年分の政治資金収支報告書を公表した。「FLASH」によると、 岸田首相が代表をつとめる政治団体「新政治経済研究会」の収支報告書には、22年の1年間で66回の「会合費」が記載されていた。
会合場所で多いのはホテルだが、水炊きが有名な料亭「つきじ治作」では1月と10月の2回会合があり、支払額は20万6945円と58万5548円。日本橋人形町にある料亭「玄冶店 濱田家」では93万7992円。そこで、SNSでは、「懐石メガネ」という呼び名も登場した、と同誌は書いている。
岸田首相は外遊で、訪問国に経済的な支援を約束することがある。12月1日には、エジプトに対し、最大で2億3000万ドル(約340億円)の財政支援を検討する考えを伝えたことが報道された。中日スポーツによると、ネット上ではさっそく「岸田総理は『ばら撒き眼鏡』」「国民無視の外面メガネ」などの声が出た、と紹介している。
岸田首相の支持率は、就任初期は50~60%前後だった。ところが最近は、20%台にまで落ち込んでいる。支持率が低くなるにつれて、あだ名も増えて、一種の「大喜利」状態になりつつある。
「どんなふうに呼ばれても構わない」
内外の有力政治家は昔から、さまざまなニックネームやあだ名が付けられてきた。19世紀に統一ドイツを樹立したビスマルクは「鉄血宰相」。20世紀の英首相チャーチルは「ブルドッグ」、サッチャーは「鉄の女」。
日本の首相でも、吉田茂は「ワンマン」、岸信介は「昭和の妖怪」、田中角栄は「今太閤」「コンピューター付きブルドーザー」、そして首相を辞してからは「闇将軍」。中曽根康弘は「風見鶏」などと称された。
ネット時代になって、一段と辛辣なものが目立つようになっている。「宇宙人」「ポッポ」「ルーピー」などと揶揄されていた鳩山由紀夫氏は、早期に首相退陣を迫られた。自民党の選挙対策委員長を務める小渕優子氏は、過去の不祥事に関連して「ドリル優子」と呼ばれることがある。
官房長官更迭の松野博一氏は「アルマジロ」。危険が迫ると、アルマジロは丸まって堅い殻で身を守るからだという。もともと、官邸内でそう呼ばれていたというが、裏金疑惑問題の記者会見で、「お答えを差し控える」を連発したことで、ネットや週刊誌などでも使われるようになった。
日経新聞によると、岸田首相自身は11月2日の記者会見で、SNSなどで「増税メガネ」と呼ばれていることへの感想を問われ、「様々な呼ばれ方をされていることは承知をしている」「どんなふうに呼ばれても構わない」と答え、「やるべきだと自分が信じることを決断し実行していく」と強調していた。