【作リエイターズアトリエ(通称「作リエ」)】
テレビアニメ「ポプテピピック」のゲームパートを描き、映像制作やイベント主催など、フリーランスでマルチに活躍する山下諒さん。隔週水曜夜、各分野で活躍中のゲストクリエイターや美大生を招き、山下さんがMCとなって、「創作」をテーマに、ツイッターの「スペース」や「オンラインセミナー」で語らう企画が「作リエ」だ。
連載では、スペースで出た話題から、エッセンスを抽出してお届けする。未来のゲストは、今この記事を読んでいるあなたかも?
第33回のゲストは、個人ゲーム開発者・フリーランスマルチクリエイターの「こはと」さん。Unity製スマホアプリ「GIGAFALL」で、2020年Google IndieGame Festivalにトップ3に入賞した実績を持つ。
テーマは「ゲームは『ホスピタリティ』で生み出せ 遊ばれなければ意味がない」。スペースアーカイブはこちらから。
死にゲーは「やさしさの塊」
ホスピタリティとは、「おもてなしの心」だ。「ゲーム制作」から、ぱっと連想する言葉ではないように思われるが......。
こはとさん「ゲームは、作品自体の進行をプレイヤーがやらなければならない、『とんでもないメディア』なんです。進めないと映像が見られない」
山下さん「やる側と作る側とで、双方向のコミュニケーションが大事ですよね。相互芸術というか」
さらに言えば、「自分でリールを巻きながら映画を見るようなもの」と、こはとさん。眺めていれば物語が進んでいくわけではないからこそ、遊び手がプレイしやすいように、「何が必要かを考え、人の心をもって作る」のが重要なのだ。制作側の思い付きや考えを一方的に通そうとするだけでは、どんなに面白い作品であっても、プレイヤーの進行が止まる恐れがある。すると、「メディアとして、体験が終わってしまう」。
こはとさん自身、ゲーマーとして多くの作品をプレイする中で、数々の「ホスピタリティ」を見て取ってきたという。ただ「本当に優れたデザインは、当たり前のように存在しているがゆえに評価されにくい」。遊んでいて「便利だな」と感じる程度で、これぞホスピタリティだ、とはなかなか気づけないという。
具体例を挙げて、解説してもらった。こはとさんが紹介したのは、アクションロールプレイングゲームのシリーズ「DARK SOULS (ダークソウル)」。いわゆる「死にゲー(編注:難易度が高く、何度も操作キャラクターが死んでしまうゲーム)」であり、敵やギミックも総じて強く、理不尽だ。「おもてなし」とは対極にありそうだが、こはとさん曰く、開発者が頭を悩ませ、丹精込めて作り上げた「やさしさの塊」だという。その理由は、スペースアーカイブにて(27:33~)。
山下さんは、ホスピタリティを感じる作品として真っ先に思い浮かぶのが、任天堂が手掛ける「マリオシリーズ」と熱くPR。中でもシリーズ初の3D作品である「スーパーマリオ64」は、楽しく遊びながら「今作ではこんなことができるのか!」と自然な気づきにつながる、ユーザーへの思いやりが随所に散りばめられていると感じるそうだ(31:35~)。
「わがまま」も忘れず、「おもてなし」を
こはとさんも、自作品にホスピタリティを詰め込んでいる。「GIGAFALL」がまさにそうだ。同作は画面中心に主人公(自機)があり、降ってくる隕石をレーザーで撃ち落とすゲーム。「指先1つで地球を救え!」という説明文の通り、タップ操作だけで手軽に遊べる。
月に1度、個人ゲーム開発者が集い、互いのゲームを見せ合ったり意見交換をしたりするイベント「Tokyo Indies」へ、こはとさんはよく参加しているといい、その経験から得た気づきが創作に生きている。「Tokyo Indies」には外国人も来るうえ、ゲーム試遊機のそばから一秒も離れずにいることは難しい――つまり「開発者がゲームの説明をできなくても、見たり、触ったりすれば操作が一発でわかるようにできないか」。そう考えた末の工夫だった。
こはとさん「難しいな、と思うと、ユーザーはコントローラーを置いて行ってしまう。作品自体が面白いことはもちろん重要ですが、ぱっと見のわかりやすさで説明できるかどうかも大切です」
直近では、23年11月12日に秋葉原UDXで行われた「デジゲー博」にも参加。「リズムゲームが苦手な人でも、リズムにノッて楽しめるシューティングゲーム」を目指して開発した、「Depth:Origin(デプス:オリジン)」という作品を持ち込んだ。こはとさんは、ゲームの遊び始め=入口部分にこそ、ホスピタリティが求められると考えており、当日はある試みをしたそう。ユーザーの反応から手応えを感じた「試み」の内容は、アーカイブにて(40:00~)。
作リエでは毎回「仕事をする上で最も大事にしている、クリエイティブの柱」を〆の質問としている。今回は尋ねるまでもなく「ホスピタリティ」かと思いきや、こはとさんはこう答えた。
「作るものに対して、とことんわがまま・身勝手であることですね」
これまで語った「おもてなしの心」と相反しそうだが、ホスピタリティだけで創作すると「やりやすくてみんなが好きそうだが、何を訴えたいのかがわからない『自我や毒がない』作品」が出来上がる恐れがあるという。
自分の「やりたい」「これが良い」を限界まで突き詰めつつ、遊び手を思いやり、「こうした方がやりやすいだろう」と想像することも欠かさない。二極の往復こそが、ゲーム開発の道程であるようだ。「限りなく『独りよがり』であれ、そして限りなく『独りよがりでなくあれ』」。こはとさんは、こう結んだ。
スペース終了後の二人に話を聞いた。山下さんは、「おもてなし」という言葉に深く共感したそう。いちゲームユーザーであり、いちクリエイターとして、色々なユーザビリティを確認してしまうといい、「その快適さを『おもてなし』と表現するのはキャッチーで、さすが」と賞賛した。
こはとさんは、今回話した「ゲームにおけるおもてなし」について、過度にやるとかえってプレイヤーにストレスを与えてしまう危険性もあるな、とも考えたそう。
「何もかも至れり尽くせりだと、疲れてしまいますからね。やりすぎず適度に、主張しすぎない程度に入れていくことが肝要だと思います」
作リエ本編で、こはとさんは「ゲームを作ったことがない人にもわかりやすいように」と、ホスピタリティの感覚をこう表現してもいた。「人に手紙を読んでもらうにはどうすればいいか、と考えた時に、読みやすくきれいな字をちゃんと書こうとするのと同じ」と。いかなる場合でもその原点は「相手を思うこと」だからこそ、時には「あえてしない、控える」判断も必要なのだろう。
2023年最後の作リエは、12月20日実施予定。