「わがまま」も忘れず、「おもてなし」を
こはとさんも、自作品にホスピタリティを詰め込んでいる。「GIGAFALL」がまさにそうだ。同作は画面中心に主人公(自機)があり、降ってくる隕石をレーザーで撃ち落とすゲーム。「指先1つで地球を救え!」という説明文の通り、タップ操作だけで手軽に遊べる。
月に1度、個人ゲーム開発者が集い、互いのゲームを見せ合ったり意見交換をしたりするイベント「Tokyo Indies」へ、こはとさんはよく参加しているといい、その経験から得た気づきが創作に生きている。「Tokyo Indies」には外国人も来るうえ、ゲーム試遊機のそばから一秒も離れずにいることは難しい――つまり「開発者がゲームの説明をできなくても、見たり、触ったりすれば操作が一発でわかるようにできないか」。そう考えた末の工夫だった。
こはとさん「難しいな、と思うと、ユーザーはコントローラーを置いて行ってしまう。作品自体が面白いことはもちろん重要ですが、ぱっと見のわかりやすさで説明できるかどうかも大切です」
直近では、23年11月12日に秋葉原UDXで行われた「デジゲー博」にも参加。「リズムゲームが苦手な人でも、リズムにノッて楽しめるシューティングゲーム」を目指して開発した、「Depth:Origin(デプス:オリジン)」という作品を持ち込んだ。こはとさんは、ゲームの遊び始め=入口部分にこそ、ホスピタリティが求められると考えており、当日はある試みをしたそう。ユーザーの反応から手応えを感じた「試み」の内容は、アーカイブにて(40:00~)。
作リエでは毎回「仕事をする上で最も大事にしている、クリエイティブの柱」を〆の質問としている。今回は尋ねるまでもなく「ホスピタリティ」かと思いきや、こはとさんはこう答えた。
「作るものに対して、とことんわがまま・身勝手であることですね」
これまで語った「おもてなしの心」と相反しそうだが、ホスピタリティだけで創作すると「やりやすくてみんなが好きそうだが、何を訴えたいのかがわからない『自我や毒がない』作品」が出来上がる恐れがあるという。
自分の「やりたい」「これが良い」を限界まで突き詰めつつ、遊び手を思いやり、「こうした方がやりやすいだろう」と想像することも欠かさない。二極の往復こそが、ゲーム開発の道程であるようだ。「限りなく『独りよがり』であれ、そして限りなく『独りよがりでなくあれ』」。こはとさんは、こう結んだ。
スペース終了後の二人に話を聞いた。山下さんは、「おもてなし」という言葉に深く共感したそう。いちゲームユーザーであり、いちクリエイターとして、色々なユーザビリティを確認してしまうといい、「その快適さを『おもてなし』と表現するのはキャッチーで、さすが」と賞賛した。
こはとさんは、今回話した「ゲームにおけるおもてなし」について、過度にやるとかえってプレイヤーにストレスを与えてしまう危険性もあるな、とも考えたそう。
「何もかも至れり尽くせりだと、疲れてしまいますからね。やりすぎず適度に、主張しすぎない程度に入れていくことが肝要だと思います」
作リエ本編で、こはとさんは「ゲームを作ったことがない人にもわかりやすいように」と、ホスピタリティの感覚をこう表現してもいた。「人に手紙を読んでもらうにはどうすればいいか、と考えた時に、読みやすくきれいな字をちゃんと書こうとするのと同じ」と。いかなる場合でもその原点は「相手を思うこと」だからこそ、時には「あえてしない、控える」判断も必要なのだろう。
2023年最後の作リエは、12月20日実施予定。