【すばらトゥーン】
スマートフォンで読むのに最適化されたフルカラーの縦読み漫画、「WEBTOON」。韓国発のコンテンツだが、昨今は国産作品の台頭もめざましい。 ナンバーナインが運営するWEBTOON制作スタジオ「Studio No.9」の漫画編集者・遠藤さんをメインパーソナリティに迎え、ツイッター(現、X)のスペースで「国産のすばらしいWEBTOON作品とホットトピックを紹介する番組」を実施。記事では模様をダイジェストでお届けする。
第七回のゲストは、大日本印刷(東京都新宿区)の松原嘉哉さん。同社のWEBTOON事業を統括するプロデューサーだ。今後、自社プラットフォームでWEBTOON作品を立ち上げる予定があるという。プラットフォーマー視点で、気になる作品や話題を紹介してくれた。
出来心レベルではない不倫
まずは、松原さんがおすすめする2作品から。
あらすじ: 24歳を目前に彼氏にフラれた水島恭子は、意を決して東京へ向かう。新しく出会った男性は17歳上の男性、前野洋一。そして久しぶりに再会した同郷の先輩、笠埼貴弘。新しい恋に戸惑いながらも、恭子は大人の女性として成長していく。
「柔らかいタッチの絵で、映画を見ているような心地よさ、余韻がある。10月15日に書籍化したので、紙の本としても見られる」(松原さん)
遠藤さん曰く、WEBTOONは「スマートフォンで読む」前提のため、バックライトありきの着色、すなわち「彩度の高いイラスト」になりやすい。ただ本作は淡く優しい色づかいなので、紙書籍になっても魅力が損なわれにくいのでは、とみる。
なお同作は「LINEマンガ」で累計1億ビューの実績を持つ。遠藤さん曰く「継続した人気がないと、なかなかいかない数字」。2023年12月時点で200話を超えており、読みごたえがある。
主人公だけではなく他キャラクターの話がまとまって入り、深く掘り下げられることもあるようで、遠藤さんは「主人公だけを軸にした物語ではない感じ」と言い表した。
WEBTOONは一気読みより、「毎日1話ずつ」タイプの人が多いため、複数キャラのストーリーが同時並行すると、読み手の混乱を招きやすい。そのため主人公を軸とし、3話程度ごとに小さな出来事を解決しつつ、ロングスパンで大筋のストーリーを展開する作品が多いそうだが、同作は話数をかけて各キャラを掘り下げ、多角的視点での世界観の理解、感情移入につなげているようだ。
あらすじ: 学生時代からの交際を実らせ、最愛の夫・勇大と息子と、幸せな生活を送っていたみのり(31)。しかし、長年にわたって勇大に裏切られていたことを知ったみのりは、勇大が大切にする「もう1つの家庭」を壊すため、壮絶な復讐計画を立て始める。
1話ごとに盛り上がりをうまく作っている、と松原さん。「なぜ夫が他に家庭を作っているのか」がわからないまま進んでいくのが、読者を惹きつけるポイントのようだ。
不倫されてかわいそうな「善良な妻」が、夫を見返す話か......と思いきや、「悪いやつしかいない。夫の不倫相手の子供だけが、唯一の良心」と遠藤さん。15年前、32年前にさかのぼって事の発端が明かされるなど、「出来心レベルではない不倫」が展開されているそう。
なお夫・勇大の第一印象を巡っては、「明らかに嫌そうなやつに見えない」という松原さんと、「絶対悪いヤツじゃん」と直感した遠藤さんとで意見が真っ二つ。「別に松原さんを、否定するわけじゃないんですけど」との不穏な前置きから始まった、遠藤さんの見解はスペースにて(27:51~)。
続いて、遠藤さんのおすすめ作品は下記の通り。
あらすじ:サスペンス刑事ドラマ。「エリート組」の甘ちゃん刑事と、「超常現象対策係」の大胆不敵な女刑事が凸凹バディを組み、「金魚の呪い」と噂される、不可解な連続殺人事件の真相に迫る。事件の背後で、超能力集団が暗躍していることが明らかに...。
遠藤さんはまず、原作の『SUPER SAPIENSS』に注目した。堤幸彦監督、本広克行監督、佐藤祐市監督らが共同で制作指揮をとり、サポーターと一丸となって「原作づくりから映像化および配給(配信)に関する全プロセスの一気通貫」に挑むエンタメプロジェクトだ。映像制作と合わせ、WEBTOON制作もしているという。
そのため、「読んで、ドラマや映画みたいな雰囲気の作品だなと思った」そうで、いわゆる「WEBTOONの王道」とは異なる、挑戦的なマインドを感じるという。その理由はスペースにて(18:41~)。
創作を「民主化」するということ
続いて「WEBTOON HOTPIC」。今回取り上げたのは下記の2トピックだ(41:55~)。
1. 新マンガレーベル「Pikalo」創刊
2. アメリカ発! 「コミック制作の民主化」ツール
1の「Pikalo」は、ピクシブ、KADOKAWA、LOCKER ROOMの協業によるもの。WEBTOONを中心に作品を掲載し、連載作品は全て書籍化するという。遠藤さんをして、「そんなこと本当にできるのか?と思った」と言わしめる動きだ。一部の超ヒットWEBTOON作品を「より広めるために、書籍化する」のがほとんどで、最初から書籍が約束されることは基本的にはないからだ、と話す。
「紙媒体でしか漫画を読まない人は一定数いるので、書籍になって店に並ぶと、違う角度から売れたり、ヒットしたりする確率が上がりますよね」(遠藤さん)
作り手側にも「WEBTOONという表現形式がある、活躍できる場がある」と知ってもらうきっかけになる、と期待を寄せている。
2は、米国のスタートアップ「Dashtoon(ダッシュトゥーン)」の取り組み。クリエイターが作ったネームのWEBTOON化を、生成AIがサポートしてくれるうえ、作品を販売する機会も提供してくれるという。ダッシュトゥーンアプリで独占的に作品配信する場合は、利用料を支払う必要はない。
単なる制作ツールではなく、販売や読者と繋げるところまでやっているのが、松原さんはユニークだと感じるという。「コミック制作の民主化」を掲げるダッシュトゥーンから、メディアプラットフォーム「note」をほうふつとしたそうだ。同社は「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」をミッションとしている。これもまた「民主化」の動きだ。
ナンバーナインも「すべての漫画を、すべての人に。」を企業理念とし、個人で制作した漫画を、日本中の電子書籍ストアで販売できるサービスを展開している。WEBTOON制作への参加ハードルが下がることについてはさまざまな見方ができそうだが、最前線の遠藤さんの私見はいかに(54:25~)。