【作リエイターズアトリエ(通称「作リエ」)】
テレビアニメ「ポプテピピック」のゲームパートを描き、映像制作やイベント主催など、フリーランスでマルチに活躍する山下諒さん。隔週水曜夜、各分野で活躍中のゲストクリエイターや美大生を招き、山下さんがMCとなって、「創作」をテーマに、ツイッターの「スペース」や「オンラインセミナー」で語らう企画が「作リエ」だ。
連載では、スペースで出た話題から、エッセンスを抽出してお届けする。未来のゲストは、今この記事を読んでいるあなたかも?
第32回のゲストは、タレント(MC)、YouTuber、ミュージシャン、ゲームクリエイター、ナレーター、と多岐にわたる活動をしている、夢川閔巳-ゆめかわみんみ-さん。シュビドゥバー(東京都中野区)所属だ。YouTuber歴は3年で、「ゲーム解説動画の再生回数390万超」の実績を持っている。
テーマは「『YouTuber一本で稼ぐ』はしんどい時代 元バンドマンの赤裸々トーク」。スペースアーカイブはこちらから。
「もうここで終わらないと、死ぬな」
「YouTubeは片手間でやっています」
思わずドキッとする、ゲストのこんな発言と共に始まった第32回。「雑、いい加減にやっているのか」と思いきや、このフレーズ......本編を聞き終えると、印象がガラりと変わる。
YouTuber一本で稼ごうと思ったら、どんな動画内容・投稿頻度で活動していくべきなのだろうか。夢川さんに言わせれば、こうだ。
「やっぱり本気で何か目標があってやるとしたら、毎日投稿するべきなんですよ」
かつて夢川さんも、「片手間と言いつつ、精神を削られながら一年間、毎日投稿をしていた」時期がある。当時作っていた動画の長さは、10分程度。このくらいなら毎日投稿なんて楽勝では、と侮るなかれ。
「1本10分の動画を作るのに、8時間から10時間かかります。そもそもの台本作成に3時間から4時間かかるんですよ。すると......毎日それしかしてないんですね。寝る時間以外。しんどいです」
編集作業を外注するなど、他人の力を宛てにすれば話は別だが、これでは趣味の時間など持ちようもない。やがて、いかにクオリティを下げていくか、という考えになるそうだ。「もうここで終わらないと無理だな、死ぬな」と、納得できるラインを決めざるを得なくなる。山下さんも、「1本の動画作りにかかる労力は並ではない」と同意した。映像作家にさえ、動画はそう簡単に生み出せない。
夢川さん曰く、現代はまさにYouTube戦国時代。有名人が始めるのでもなければ、「『YouTuber一本で稼ぐ』はしんどい」どころか、「無理」。あわや、スタート15分ほどで番組終了かと思いきや、夢川さんはある「モデルケース」を考案してくれた。サラリーマンが「副業」として、YouTubeで稼ごうとしたら、どうすべきか。
「動画を、毎週1本出しましょう。無理なら2週間に1本でもいいです。100本出せるまで頑張って続けてみる」
テーマは最初に、可能な限り絞るのが望ましい。例えば「キャンプ」が好きなら、実際にキャンプへ行って「この道具がすごい使いやすい」、「ある新商品を使って料理してみた」などの解説動画を投稿する。資金があるなら、編集などさまざまな作業を外注できるが、「台本作り」だけは自力で行うのがおすすめだという。
顔は出さなくてもよいが、声は(1)自分の肉声を使う、(2)声無し、テロップで説明する、(3)音声読み上げフリーソフトを使う、(4)外注でナレーションを入れてもらう、など選択肢が複数ある。どれも善し悪しだ。自身の声に、ファンとアンチ、どちらもつく可能性がある。
なぜ、動画投稿「100本」を目指すのか。
「100本出すまでに普通の人は『あ、伸びねえなこれ。やってられねえわ。何してるんだろう』ってやめるんですよ」
しかし、そこでやめたら絶対に伸びない、と夢川さん。とにかく100本作ってみようと頑張るうち、どうすればもっと効率的にできるのか、と考え始めるようになり、もっと見やすいようにできないか、と他のYouTubeや地上波の番組も「研究対象」として分析するようにもなる。同時に、自分が手掛けた動画の中で「(再生数が)伸びるものと、伸びないもの」の差が見えてくる。そうしたら、次に取るべき行動は「捨てる」だ。
「100本も続けて、このチャンネルは無理だなと思ったら、その動画、そのチャンネルは捨てて、もう1個チャンネルを開設する」
それまでに培った知識を糧に、伸びやすい動画・チャンネルに路線変更するのだ。「もったいない」と惜しんでしまいそうだが、夢川さんに言わせれば「チャンネル1本で成功しようと思う必要がない」。その心は(27:33~)。
他にも夢川さんは、番組中に寄せられた「僕の動画を見てアドバイスしてほしい」というリクエストに応えたり、YouTubeに「思い出の動画」をまとめているリスナーのチャンネルを見て考えを伝えたりと、ノウハウを惜しまず明かしてくれた。詳しくはアーカイブにて(44:10~)。
ゲーム業界の「とんでもない出演者」続々
終盤、山下さんに「YouTubeに関して、閔巳さんの今後の展望や目標は?」と尋ねられた夢川さん。あっさりこう答えた。
「お金稼ごうっていう気は、本当にもう、全然ないですね。元からない」
夢川さんは、スペースのタイトルにもある通り、元は「バンドマン」だった。「テレビタレントになりたい」という目標を持って音楽活動していたという。しかしコロナ禍になり、現状のやり方が最適解ではないだろうと判断。自主的にできることとして、当時所属していた音楽バンドの活動と並行し、メンバーと一緒にYouTubeを始めた。
動画の編集担当として、「ライブしながら、YouTubeを2チャンネル同時に運営する」多忙な日々を送るうち、「グループではなく、ソロでYouTubeをやってみるのはどうなのか」と考え始めた。その矢先、メンバーからこう言葉をかけられた。
「お前はゲームについてめちゃくちゃ詳しいし、大好きじゃん。愛が伝わると思うし、絶対伸びるから、ゲーム解説系とかやった方がいいんじゃないか」
ビジネスライクなのではなく、本当に好きなのだから、と。
この考えは今も夢川さんを支え続けているようだ。ゲームクリエイターをメインに、エンタメ業界で活躍する人々をゲストに呼び、対談する企画「とくとくトーク!!!」の発展こそが、YouTubeでの目標だと語る。第一回ゲストは、サイバーコネクトツー(福岡市) の松山洋代表取締役社長だった。「.hack」シリーズ、「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズなどを手掛ける企業だ。
第2回のゲストも決まっている。夢川さんは初出し情報として、作リエでのトーク中に発表をしてくれた。第1回に続き、豪華な顔ぶれだ。気になる正体は、アーカイブを参照のこと(1:07:50~)。
以降も「とんでもない出演者」が登場するそう。ゲーム業界や、ゲームクリエイター志望の人にとっては見逃せない企画だろう。夢川さんは「視聴者の時間をいかに削らないか」を動画制作のコンセプトに掲げ、対談内容を凝縮しているので、良い意味で無駄のないトークを楽しめる。
夢川さんは今も「テレビタレント」を目指している。「ドラゴンクエスト公式アンバサダーになる」ことも、大事な夢だ。YouTube活動は、そこに近づくための重要な足掛かりであり、大好きなゲーム業界に「恩返し」する方法でもある。夢川さんの場合、YouTube一本に絞って「毎日投稿すること」に全てを賭けるよりも、いくつもの活動の中の一つとして「片手間」に活用した方が、ちょうどよいのだろう。
人生最大の成功への秘訣とは
スペース終了後の二人に話を聞いた。山下さんは、「YouTubeで稼ぐ世界は輝かしいものですが、非常に泥臭く地道な世界であると、今回の話を聞いて改めてしみじみと感じました......」。歯に衣着せぬ物言いの夢川さんに、終始振り回されっぱなしだったが、
「その中でも閔巳さんはセルフプロデュースを徹底していてスゴイですよね。自分もあそこまでの冷静な判断力を持ちたい!」
と誉めそやしていた。
夢川さんは、活動内容が変わりつつも、周りの人に助けられながら着実にステップアップし、「少しずつ本当にしたいコトが出来るようになってきた人生だな......」と改めて思ったそう。さらに、
「『周りの人への感謝を忘れない』。これが人生最大の成功への秘訣ですね。はい、好感度UP」
とコメント。末尾に、お茶目な一言を添えていた。番組中も終了後も、冷静な分析眼に基づく鋭いコメントと同時に、場を和ませるフォローも忘れなかった。
第33回作リエは、2023年12月6日実施予定。