「安い大学」の選択肢が増えている。東京都は、年収910万円未満の家庭の場合、東京都立大学の授業料を免除する方針を打ち出している。大阪府はさらに条件を緩和、大阪公立大学の授業料を完全無償化する予定だ。
世帯年収を問わない
都立大は2024年度から、授業料無償化の対象を今の「世帯年収478万円未満」から一気に「同910万円未満」に広げる。小池百合子都知事が2023年10月13日、正式に明らかにした。保護者の都内在住が条件。子が3人以上いる場合は、年収910万円以上でも授業料の半額が免除される。新制度は来年度から始まり、新入生だけでなく在校生にも適用される。
都立大をさらに上回る好条件になりそうなのが、大阪公立大。22年に大阪府立大と大阪市立大が統合して生まれた公立大学だ。世帯年収にかかわらず授業料が無償になる。
大阪府立大は、作家の東野圭吾さんや藤本義一さんの出身校。大阪市立大は、旧三商大の一つで、医学部も伝統がある。
対象となるのは府民で、段階的に所得制限を撤廃し、26年度の制度完成時には年収に関係なく無償にするという。吉村洋文知事は23年春の知事選で、公立大や高校の完全無償化を公約に掲げて当選していた。
また、兵庫県も今年8月、県が設置している県立大学 (兵庫県立大学、芸術文化観光専門職大学)について、県内在住者の入学金及び授業料を学部、大学院共に、所得にかかわわらず、無償化する方針を打ち出している。26年度からの完全実施を目指している。
優秀な学生を囲い込む
日本の大学の授業料は、長期的にみると、諸物価の中でも最も高騰しているといわれる。約半世紀前の1970年ごろは、国立大の授業料は年間1万2000円。有名私立大でも10万円以下のところが幾つもあった。それが現在は、国立大は50万円を超え、私立大も100万円前後に上がっている。
公立大は現在、概ね国立大と同じくらいの授業料。県や市が設立主体のため、議会の承認が得られれば、授業料の免除や値下げが可能だ。都立大など大都市圏の公立大は、有名国立大や私立大と受験生の争奪戦になっていることもあり、学費を安くすることで、優秀な学生を囲い込むことを狙っている。
朝日新聞によると、全国の公立大学は戦後長く30校ほどだったが、近年、看護系の公立大が増えたことや、経営難の地方私立大を、地方自治体が公立化して引き受ける例も相次ぎ、現在は全国で約100校に膨れ上がっている。地方の公立大も、地元の国立大と受験生を奪い合う形になるが、財政事情が厳しい自治体が多いので、大都市圏のような授業料の無償化は難しそうだ。