2021年に大きく注目を集めた「メタバース」というワード。これを聞いてまず思い浮かべるのは、VR(仮想現実)ゴーグルを着用した人間が3D空間内にてアバターの姿で他のユーザーと交流する様子かもしれない。一方、「メタバース」を掲げるサービスはVR非対応だったり空間が2次元デザインだったりと性質は幅広く、定義は曖昧だ。
一部には「メタバース」という言葉に苦手意識を持つVRユーザーまでいるようだ。前編では、その意味の広さや、VRユーザーの受け止めについて取り上げた。このワードをどう捉えればよいか、後編では、仮想空間で活躍するクリエイターが所属する「メタバースクリエイターズ」(東京都渋谷区)に取材。メタバースの定義について、幅広い意見が飛び出した。
「メタバースとは時代である」
記者の質問に答えるのは、同社代表の若宮和男さん。メタバースプラットフォーム「VRChat」のワールド(空間)制作をするタナベさん。食品を再現した3Dモデルや、メタバースアプリ「ZEPETO」内のアバター用の小物制作を手がけるhenomohesanさん(以下、henomoheさん)だ。
今回は、タナベさんが作ったVRChatワールド「ぽかぽかファンタズム元年」で取材に応じた。病院のような空間や東京・池袋西口エリアをモチーフにした街などさまざまな要素が詰め込まれた、バラエティーや情報量豊かなワールドだ。
若宮さんは、前編で取り上げた野村総合研究所の説明について、「(メタバースを)網羅的に定義できている」と語る。同研究所は、メタバースとは現実世界を超える体験や交流を通して経済活動が生まれ、ユーザーは「3次元で構成された仮想空間の中で、自分自身の分身であるアバターを介して自由に動き回り、他者と交流し、商品やサービスの売買など様々なことを体験できる」場、と公式サイトで説明している。
「メタバース」を掲げるツールの中には、ドット絵や平面絵でデザインされ、リモートオフィスとして使える2Dサービスがある。若宮さんは、こうしたものまで含めてしまうと、「メタバース」というワードがやや広すぎてしまうとの認識だ。
こうした2Dサービスは「Zoomのように仕事上で使うツール」であり、「(メタバースでは、)住んでいる感覚」が重要と見解を語った。
タナベさんには、「人と人とのコミュニケーションがとれる(仮想の)世界」を指す、という感覚がある。2Dや3Dのオンラインゲームも、チャットや音声でコミュニケーションがとれれば、「メタバース」に該当するとの考えだ。
henomoheさんは、一般論では「アバターを通しての生活や交流、経済的なやりとり」が定義、と聞くことが多いという。一方、どこかで
「メタバースとは時代である」
という意見を耳にしたことがある、と話す。誰もが当然のようにアバターを持ち、いつも仮想空間に入る時代が訪れれば、初めてその空間を「メタバース」と呼べる、という考え方だ。自身はこの考え方に共感しており「厳密にはメタバースはまだ存在しない」と捉えている。