メタバース上に築かれた姫路城。本丸エリアにそびえ立つ、雄大な天守閣。両脇には、1993年の世界遺産登録から30周年を迎えたことを告げる旗がたなびく。姫路市の新たなプロジェクトかと思いきや、これは市民有志が作った、行政とは無関係の仮想空間だ。
バーチャル姫路城の制作を手がけ、姫路での生活の「応援」を掲げるプロジェクト「ヒメカツ!」の運営に、2023年11月6日に取材した。
地元を出た人にも向けて
「ヒメカツ!」での活動に取り組んでいる田中菊治さんが、取材に応じた。姫路生まれ、姫路育ちで、現在も居住している。同プロジェクトは、2021年4月から本格的に活動開始。以降、バーチャル姫路城の制作も始め、22年12月に公開したという。
「ヒメカツ!」公式サイトによると、この活動は「だれもが幸せに暮らせるまちづくり」がミッション。より具体的な内容として、「地域資源の活用に関する活動」「郷土愛の醸成に関する活動」「関係人口の創出・拡大に関する活動」などを掲げる。
cluster上では、城の本丸にあたる「備前丸」エリアや、「上山里丸」「西の丸」など、姫路城の各所を再現したワールドを公開。さらに、「天守閣エリア」ワールドでは、6階にあたる最上階から地下1階まで、大天守の内部が細かく再現されている。取材時の11月6日時点でも、制作は進行途中だ。今後は声優を起用し、城のガイド音声を流す仕掛けを考えているという。
田中さんによると、バーチャル姫路城の「建設」は、姫路市民だけでなく、進学や就職により同市を出た人にも向けて制作している。姫路の「関係人口の創出」や「郷土愛の醸成」を達成するための策だ。
姫路を出た人がメタバースを通して市のシンボルへ訪れ、「『姫路にもどってこようかなあ』という、郷愁の思いを抱いてくれれば」。こうした考えがあるという。「ワールドは、『イベント利用可』にしています。もっといろんな人に知られて、使ってもらえたらうれしい」。いずれは姫路城に限らず、市内の他のスポットもメタバース上に再現するつもりとのことだ。
完成までの年数は
「ヒメカツ!」プロジェクトでは、姫路城の天守閣に隠れ住むとされる妖怪「刑部姫」や、「播州皿屋敷」で知られる亡霊「お菊さん」など、地元伝承の登場人物を基にしたキャラクターを制作し、情報発信に活用している。
たとえば姫路の食材を使った料理企画「地産地消のススメ!」をXに投稿。レシピは、「クックパッド」にも投稿している。また、地元を舞台にしたハートフルコメディ漫画「ヒメカツ!」を、Xや公式サイトに公開している。
姫路城の「築城」も含め、「ヒメカツ!」の運営はほぼ田中さん1人で進めているというから驚きだ。制作にあたり、自身で何度も現実の姫路城に足を運んでいる。一方で、上述の漫画は、イラスト制作などを手がける「犬糞」さんに。キャラクターのアバターは、3Dモデル制作などをしている「海老根マヨ」さんというユーザーに依頼している。
現状、活動を通しての収益は一切発生しておらず、私費で運営している。ただ、活動資金に充てるべく、市民活動やボランティアをサポートする市の施設「ひめじおん」に任意団体として登録し、グッズ販売による収益事業を視野に入れているとのことだ。
ゆくゆくは、城から内堀にかけてのエリアをバーチャル上に制作する予定だ。作業期間について、「できれば5年でいきたいとは思います」と語る。ただ、現存していない建物の再現も作りたいと考えているため、資料集めを含めて「もっと伸びるかもしれない」と話した。