【すばらトゥーン】
スマートフォンで読むのに最適化されたフルカラーの縦読み漫画、「WEBTOON」。韓国発のコンテンツだが、昨今は国産作品の台頭もめざましい。
ナンバーナインが運営するWEBTOON制作スタジオ「Studio No.9」の漫画編集者・遠藤さんをメインパーソナリティに迎え、ツイッター(現、X)のスペースで「国産のすばらしいWEBTOON作品とホットトピックを紹介する番組」を実施。記事では模様をダイジェストでお届けする。
第六回のゲストは、マンガ・アニメなどのコンテンツの新たな可能性を開拓するMinto(東京都港区)漫画編集者・座光寺さん。「WEBTOON制作現場最前線」ならではの視点で、作品はもちろん「漫画作りに携わる人」にまつわる話題にも切り込んでくれた。
漫画じゃなく「カードゲームを作りたい」?
まず、二人がおすすめする国産WEBTOONの紹介コーナーから(カッコ内は、スペースで言及した時間。詳細に聞きたい場合は、リンク先のアーカイブを参照のこと)。座光寺さんからは二作品挙がった。
・最強ゲーマーEXスキル英雄使いで無双する (6:33~)
あらすじ: 苦しい生活、いじめ、奴隷同然の人生......。主人公「最底辺」の日々を過ごすなか、やりこんだゲーム「ヴァルハラの揺り籠」のラストダンジョンが、現実世界に現れた! 世界でただ一人、攻略法を知る主人公による逆転劇が始まる。
「決めゼリフや、カッコイイ主人公の顔のアップなど、スクロールを止めてまで見入ってしまう演出が魅力。敵として、弁慶など史実に基づいたキャラクターが登場する。戦闘中に、敵の『回想シーン』を入れて感情描写したうえで倒す(座光寺さん)
同作の決めゼリフとは「さあ攻略の時間だ」。このフレーズが主人公の口から飛び出せば、読者は勝利を確信できる。遠藤さん曰く「勝ち確演出」だ。同作のような現代バトルファンタジーの読者には、主人公の活躍に期待を寄せる人が多いという。そのため読み手を惹きつける「ヒキ」として、こうした勝ち確演出を話の最後に持ってくることで、次を読みたくなる作りにしているのだ。
・俺のターンは終わらない (29:20~)
あらすじ:突如「ダンジョン化」現象に見舞われた世界が舞台。主人公は、人類を守る「『ゲートカード』を操る覚醒者」にギリギリ合格したものの、底辺の存在として虐げられていた。しかし、あるピンチがきっかけで覚醒。人智を超えた力を手に「反撃」に打って出る。
「能力がカードに由来し、作中では(覚醒者が)1人1枚しかカードを使えない設定。しかし主人公は複数枚の強いカードをほぼ無限に扱い、色々なモンスターをバンバン操るのが少年心をくすぐる」(座光寺さん)
座光寺さんの紹介を受け、遠藤さんは「カードゲーム......作りたいなと......」とぽつり。転職発言かと思いきや、自社のWEBTOON作品をさらに盛り上げるための構想だった(31:45~)。
続いて、遠藤さんのおすすめ作品は下記の通り。
・モブなのに過保護な公爵に溺愛されています (18:10~)
あらすじ:乙女ゲームのモブ(主要人物以外の、その他大勢)キャラ・レティシアに転生した主人公。双子の姉から、ぽっちゃりした婚約者のリオネルを押し付けられる。ただレティシアは、リオネルが「磨けば輝く原石」と気づき、プロデュースすることに......。
遠藤さんは、物語スタート時にキャラクターが「ぽっちゃり」だと、展開に伴って体型に変化があり、ギャップを楽しめると分析。すばらトゥーン第4回で取り上げた、「おデブ悪女に転生したら、なぜかラスボス王子様に執着されています」でも類似した手法が使われている。
なお、同作は座光寺さんが所属するMinto Studioが手掛けている。より魅力的な女性向け作品に仕立てるうえで、座光寺さんはメインキャラクターの女性が単にチヤホヤされるのではなく、「愛される理由付けが必要」と語る。
遠藤さんはこう喩えた――夜、甘いものを食べようという時、太ることへの不安や罪悪感が募る。ただ「頑張った自分へのごほうび」とすれば、受け容れられる。こういう傾向が女性にはあるのではないかという。
「理由や言い訳があると、楽しいことを享受しやすい。自分が起こしたアクションに対して感謝される形で溺愛される方がいいのかな、と」(遠藤さん)
漫画制作の現場で飛び出す「ボウリング用語」
続いて「WEBTOON HOTPIC」。今回取り上げたのは下記の2トピックだ(36:45~)。
1. 「路上伝説」が10月4日に紙単行本化!
国産の新興スタジオの作品でも、紙書籍化の事例が出始める。
2. WEBTOON作家と、どうやって出会う? 各社の工夫と事例を紹介
注目どころは2(42:25~)。作品作りの要である「作家」と、どのように出会い、信頼関係を深めていくのか。座光寺さんは「ベーシックな方法かと思う」と前置きし、自身の取り組みを教えてくれた。出会い方には、大きく分けて3つある。
1.ネット掲示板などで「募集する」
2.SNSや公開されている作品、イベントを介して知った作家に「声をかける」
3.自社のフォームに寄せられる「持ち込み」
遠藤さんは、知り合いの作家から、新たな作家を紹介してもらうケースもあるとしつつ、「ウルトラCのような方法はない」と話す。作家との接点づくりには地道な努力が欠かせないのだ。
また、「漫画づくり」に関わりたい人に対して、そもそもWEBTOONという手法・形式があると啓蒙する必要性も感じているという。そしてそれは、「出会う時」にだけ頑張ればよいことではない。
座光寺さん曰く、WEBTOONは新しい文化であるがゆえに、作家にも編集者にも「何十作と手掛けたベテラン」がいない。共に制作する仲間になったからこそ、一緒に成長していくためには知識やノウハウの共有が大事だ。遠藤さんは、日々の作家との打ち合わせの中で出た「WEBTOONあるある」を用語化およびマニュアル化し、広めているという。
生み出した言葉の一つに「ガターライン」がある。ボウリングレーンの端にある溝を思い浮かべてほしい。
「WEBTOONは縦長画面で読んでいくので、視線は真ん中に集中します。重要な吹き出しや絵を端に寄せると、目が泳いでしまい読みづらさにつながるので、『ガターラインにはそういう情報を載せないでください』などとお願いをする」(遠藤さん)
それぞれの主観で「こうしたい」を表現すると、複数人で同一のイメージを持つのは困難になる。平易な言葉で明確な判断基準を作り、行き違いを減らすのも編集者の重要な役割だ(54:40~)。