メタバースプラットフォーム「VRChat」や「Cluster」では、多くのユーザーがアニメ調の美少女アバターを用いている。こうしたアバターには一定の割合で、頭部に犬や猫、狐のような耳が生えている。
人型キャラクターに生えた動物風の耳は、俗語で獣耳(けものみみ、けもみみ)と呼ばれる。「なぜアバターには獣耳があるのか」と気になったVR記者カスマル。VRやアバターに詳しいデジタルハリウッド大学・茂出木謙太郎准教授と、3Dアバターのデザインや制作を手がけるクロイニャン氏をメタバース空間「バーチャ場」に招待し、公開取材を行なった。
「なぜ生やす」かクリエイターに聞くと
バーチャ場の登壇者を見ると、カスマル、茂出木氏、クロイニャン氏のうち、茂出木氏以外の2人には「獣耳」が生えている。
まずはクロイニャン氏に話を聞く。イラストや3Dモデル、デジタルコンテンツを手がける「黒猫洋品店」(東京都港区)の代表を務める。3Dアバターの制作依頼では、「3分の1くらい」の作品に獣耳が生えているという。
「獣耳をなぜ生やすのか」質問すると、「髪の毛につけるアクセサリーのひとつとして猫耳はかわいく、使いやすい」と語る。
またVR界隈で有名なインフルエンサーがアバターに獣耳を用いていると、好きなファッションモデルの服装を真似する感覚で、他のユーザーもアバターに動物の耳を用いることがあるのではないかと推測する。
クロイニャン氏自身のアバターのデザインは、10年近く前に生まれた。猫耳が生えているのは、「小動物的なかわいらしいキャラクターを作りたいと思っていたからだと思います」と振り返った。
日本画や漫画史を振り返る
なぜアバターには獣耳が「生えがち」なのか、今度は茂出木氏に聞く。話によると、獣耳という「動物属性」を付与すると、アバターは「かわいくなる」。そして、「かわいい」ことは「コミュニケーションの増幅(装置)になる」と指摘する。アバターが「かわいい」と、「注意をひきつける」「(他人が)手助けをしたくなる」「甘くなる」といった効果があるという。
また、動物にはある種の性格的イメージが伴う。犬なら「従順」、猫は「気まま」といったものだ。人間が獣耳を活用するときには、その人物がどのような人間性に見られたいかを暗に伝えるために利用している面があるという。
では、獣耳は、いつごろから「かわいい」と考えられるようになったのか。茂出木氏は、鳥獣人物戯画などの日本画やディズニー作品、名作漫画や「ドラえもん」、1970年~80年代の作品、アニメを例にとり歴史を解説していく。
茂出木氏によると、昔の絵画では、動物そのものがモチーフの場合は、鳥獣人物戯画を見ればわかるように、かわいらしくユーモラスなものとして描かれることがあった。他方、人や獣を混ぜ合わせる「獣人化」は恐怖を連想するものとして捉えられていたという。1835年の歌川貞秀の「東海道五十三次之内 岡崎」という浮世絵内では、化け猫とともに猫耳の生えた不気味な人物が描写されている。
一方、故・手塚治虫氏の作品を見ると、1950~60年代の有名作品「鉄腕アトム」の髪型は獣耳を連想させる部分がある。また他の手塚氏の作品を見ると、獣人キャラクターの描写において、「(人間が)動物化するとかわいい」という感覚を持っていた節があるという。
漫画家・かがみあきら氏の作品「鏡の国のリトル」の1983年掲載エピソードでは、登場人物の男性が「かわゆい女の子」を想像したときに、猫耳の生えた少女を思い浮かべるシーンがある。つまり、83年の段階で、メディアによっては「猫耳の女の子はかわいい」との感覚が存在していたとの指摘だ。
こうした「獣耳はかわいい」との文化は、どのようにしてVTuberやアバター文化にも受容されていったのか。詳細や続きのアーカイブ動画は、バーチャ場公式ユーチューブ内から確認できる。