新語への順応 阿川佐和子さんが嘆くコロナ周辺のカタカナ群

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■徹底した自虐

   時流へのボヤキは、ベテラン随筆家の定番である。それも、不便を楽しむような筆致が多い。阿川さんの本作「新語順応力」も王道を行く展開で、こう締めている。

「マカロンをやっと覚えたばかりの私にはとうてい追いつけない。昔は『しろたえのシュークリーム、おいしいね』と言っていたはずが、今や『〇〇』の『××』は絶品ね」とかなんとか言わなきゃならんのか!」

   ちなみに〇〇には18字、××には33字の架空の店名と菓子名が入る。「わからーん!」をデフォルメした、彼女らしいお遊びだ。

   阿川さんの自虐は徹底している。未知の言葉への困惑に始まり、誤用や言い間違いをしながら馴染む過程や、「10年前から知ってます」みたいに使う自分を笑い飛ばす。

   ゴルフを始めた頃の勘違いが面白い。ある人に「僕はグリーンが苦手で」と言われ、「え? それは大変ですね」と大仰に同情した話。なにしろ阿川さん、打ち始めから旗が立つカップまで、ゴルフ場の「緑色の地面」を全てグリーンと呼ぶと思っていたそうだ。

   安定の阿川エッセイ。読者へのサービス精神や構成の妙もさることながら、毎度これでもかと繰り出す小ネタの豊かさに感心させられる。

   引き出しの多さと深さ、随筆家の生命線である。

冨永 格

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