新語への順応 阿川佐和子さんが嘆くコロナ周辺のカタカナ群

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   婦人公論11月号の「見上げれば三日月」で、阿川佐和子さんが次から次に登場してくる「新語」の分かりにくさを嘆いている。

「近頃、急速に馴染みのないアルファベット用語やカタカナ言葉が増えてきた...ここ数年、その勢いがさらに加速した気がする...新型コロナが猛威を振るい始めたことが要因として大きい」

   ややこしい新語が増えたのはコロナのせい?...どういうことか。どうやら、新型コロナ感染症の周辺を固める 膨大な関連用語群のことらしい。いわく、パンデミック、エビデンス、クラスター、ソーシャルディスタンス、サーベイランス...さらにはPCRなどの略語まで。阿川さんは「日本語に直してくれんのかい!」と思う。

「そして気がつくと、自らも『十年前から知ってますよぉ』のごとき平然とした顔で 会話に組み入れている...でも、小さい声で言うけれど、本当はそんなによくわかっていない...報道番組の司会者なんぞをやっていなくてよかったと つくづく思う」

   〈そこにはエビデントがあるんですか?〉〈クライスラーが起こった模様です〉〈PTA検査の結果についてですが〉...いずれも、筆者が「きっとそんな初歩的な言い間違えを何度もしていたにちがいない」という、想像上のやらかし例である。

  • 使い始めて77年、最も浸透した三文字略語のひとつ=渋谷区の日本放送協会で
    使い始めて77年、最も浸透した三文字略語のひとつ=渋谷区の日本放送協会で
  • 使い始めて77年、最も浸透した三文字略語のひとつ=渋谷区の日本放送協会で

■覚えられない店名

   筆者は、ある社長の言い間違いにも言及する。社長は秘書に「へえ、連休に子供を連れてUFJに行くの? そりゃ混んでるだろうなあ」 秘書(笑いながら)「社長、違います。USJですから」。もちろん 大阪市にあるテーマパークのことだ。

   二人の横で「連休はそんなに銀行が混むのか」といぶかった阿川さんは続ける。

「私も笑った。でも頭の片隅で『他人事ではない』と囁く声がした」

   確かに、三文字アルファベットの略称は曲者だ。

「私の子供時代...すらすら口から出てきたのは、DDTとPPMとPTAくらいだろう。他に何があったっけ? GDPとかBBCとか。NPOとNGOはどう違うんでしたっけ?」

   阿川さん、携帯電話やスマホが出始めて さらに混乱したそうだ。まず、iPhoneとスマートフォンの違いが判らない。友人の清水ミチコさんが呆れて「スマホが果物ならiPhoneはバナナ」と教えてくれたのだが、余計わからなくなったそうだ。

「あらゆるものがデジタル化された頃から 人々の会話にカタカナが増殖し始めた。ログインするためにはIDとパスワードを...URLをクリックしてそのサイトから資料をダウンロード...写真をスキャンしてJPEGで送って...わからーん!」

と 文句を垂れながらも、仕事だと思えば覚えるし、趣味の専門用語なら楽しみながら身につく。他方、このところ好きな洋菓子への関心が薄れてきたという。

「まずお店の名前が覚えられない...菓子そのものにも小洒落た名前が長々とついている...菓子職人はパティシエになり、ショートケーキはガトー・フレーズときたもんだ」
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