【作リエイターズアトリエ(通称「作リエ」)】
テレビアニメ「ポプテピピック」のゲームパートを描き、映像制作やイベント主催など、フリーランスでマルチに活躍する山下諒さん。隔週水曜夜、各分野で活躍中のゲストクリエイターや美大生を招き、山下さんがMCとなって、「創作」をテーマに、ツイッターの「スペース」や「オンラインセミナー」で語らう企画が「作リエ」だ。
連載では、スペースで出た話題から、エッセンスを抽出してお届けする。未来のゲストは、今この記事を読んでいるあなたかも?
第31回のゲストは、声優・タレントプロダクション「B-Box(ビーボックス)」に所属している声優の田村僚佑さん。KBCラジオドラマ「下町ロケット」で、真野賢作および柏田宏樹役を、YouTubeで連載中のボイスコミック「七星くんと委員長」で有栖川要織(アリスガワイオリ)役を演じている。
テーマは「『事務所所属に7年かかった』声優が明かす 養成所で『気配りアピール』よりすべきだったこと」。スペースアーカイブはこちらから。
「芝居力で勝負」という、本当の意味
田村さんは大学卒業後に上京。それまで全く演劇は学んでこなかったため、右も左もわからないままに声優の養成所へ入った。芝居の勉強はもちろん、筋力トレーニングをしながらの発声練習など、基礎体力作りにも励んだという。
現在所属している事務所に入るまで、いくつかの養成所で修行し続けること計6年――多くの講師・生徒に知り合えた分、多様な価値観に触れられたのがよかった、と振り返る。「『型破りなこと』をしたくなる人が多いが、基礎ができていなければ、それはただの『形無し』」「悪い役でも愛されなさい」など、今でも大事にしている教えも、この間にかけられた言葉だ。
ただ、「自分は養成所に長くいすぎてしまった」と田村さん。
「すごく上手い人なら、養成所に通いながら仕事をしますし、1年ですぐ事務所に入ります。長くても、2年か3年くらいで一区切りというところが多い」
なぜ6年もいたのか、と山下さんに問われると「俺の芝居が下手、だったから......?」とぽつり。現在進行形で挫折を幾度となく繰り返しつつ、それでも「辞めない理由」を支えにしてきた。
養成所での日々は常に、「他の生徒との競争」でもある。そのため田村さんは、「自分が目立てばいい、という芝居をしがち。(養成所に)通いすぎて、変な『我』が生まれてしまった」。自分よがりになってはいけない、と肝に銘じているそうだ。
また周囲の芝居の上手さ、自分との実力差に焦り、「芝居以外」でのアピールに走ったことも反省点として挙げた。例えば、授業に必要な「マイクスタンド」などの備品を率先して持ち運ぶといったことだ。「何もせず、全部周りに任せればいいという考えもいけないが」と前置きし、田村さんはこう続けた。
「気配りで成功すると、『気配りすれば見てくれる人がいる』と思って、芝居に本腰を入れなくなる。芝居を身に着けるために養成所に通うのだから、そこに力を入れるべきだった」
田村さん曰く、「事務所に所属している人はみんな、気配りができる」。前提が同じなら、後は芝居力での勝負だ。
楽しい世界だからこそ、本気で
スペース終盤、山下さんは「声優をこれから目指す人、声優の卵に伝えたいことは」と質問を投げかけた。すると田村さんは、所属事務所の代表である、声優・井上和彦さんの言葉を紹介。作リエのリスナーの中でも、特に「養成所に入った人たち」に向けた一言だ。
「お芝居はすごい楽しい世界なので、楽しくやるのは大事だけど、やるなら本気でやりなさい」
田村さんも「やっぱりそうだよな、ドキッ」としたという。山下さんも「ただ楽しくやるだけでは成長しないですからね」と頷く。さらに、井上さんのあたたかい言葉は他にも。詳しくはアーカイブにて(50:28~)。
スペース終了後の二人に話を聞いた。山下さんは、田村さんが養成所生として積み重ねた時間と経験、熱量を受けてか、こう話した。
「どういう生き方をどれくらいの期間行う...というのはなかなか難しい判断ではありますが、どの選択も『良い・悪い』がありますね。なかなか考えさせる話題だなと思いました」
田村さんは、作リエ出演の誘いを受けた際「俺なんかでいいのだろうか......」と不安だったが、それでも「ええい、ままよ!」と飛び込んでみたという。本番がスタートし、リスナーがいるのを見た瞬間、「僕自身や僕が話す話題に興味がある方がいるんだなと感じて嬉しくなった」。また、絵文字でのリアクションやコメントが寄せられたことに触れ、このように語った。
「『この人たちに楽しんでもらいたい、この人たちに届けるんだ』と、話している先に誰がいるのかがはっきりとしました。これはこれからの役者生活においてとても大きなことです」
結果、「頭でうだうだ考えてないでとりあえず行動してみることは大事」と感じたという。
田村さんは今年8月末ごろにバイトを辞め、週3~5ペースで自主練やワークショップを通じて「芝居漬け」の生活を送っている。自分がバイトをしている時間にも売れている人たちは仕事をし、どんどん腕を上げていく状況では、差が一生埋まらないと考えた。30歳を迎え、「ちゃんと役者と向き合わないと、今後自分は何者でもなくなってしまう」と思いが根底にある。技術と精神の研鑽の日々は続く。