「死」のイメージが漂う歌も
「チャンピオン」は、不撓不屈の精神で闘って敗れ去った男の物語だが、谷村さんの作品にはさらに進んで、「死」のイメージが漂う、胸に迫るものも少なくなかった。
「群青」は、映画「連合艦隊」の主題歌なので、当然ながら「散華」がテーマになっている。若い兵隊が戦争を運命と受け止め、死なざるを得ない非情――粛然と頭を垂れて聴くしかない鎮魂の歌だ。
「Bye Bye Bye」のフレーズで知られる「帰らざる日々」では、「私は一人で死んでゆく」と歌い、「シェナンドー河に捧ぐ」では、年老いた男が「今こそ帰らん母なる海へ 身も心も帰らん」と、指で砂にしるす。
「葬送セレナーデ」という曲もある。「彼が死んだ 時の流れに逆らい」で始まるこの歌の主人公「彼」は、「たった一枚のハガキ」を残して逝った。その「彼」と、「それぞれの秋」に登場する「あいつ」とは、どこか重なるところがある。「ある雨の朝 見知らぬ町で 自ら命を終えた」、あいつ。その死を知ったのは、あいつのおふくろから届いた、「痛々しいほど細い文字」で書かれた一通の手紙によって、だった。
テレビなどでは、柔和な笑みをたたえていることが多かった谷村さん。音楽研究サイト「世界の民謡・童謡」の「昴 すばる 谷村新司 歌詞の意味・解釈」によると、学生時代は石川啄木の愛読者だったという。残された作品には、人生の不条理や哀愁を感じさせるものが少なくない。代表作の「昴」も含めて、謎めいた抒情詩のような歌詞の行間から、今も何かを問いかけ続けている。