死角の下半身
英語で〈under-the-table〉と並べれば「闇取引の、違法な...」という形容詞になるらしい。テーブルの上が公式、建前、社交儀礼が支配する空間なら、下は私情、本音、我欲むき出しの領域とでもなろうか。コタツの中ほどではないにせよ、会食相手からは見えない(はず)という安心感が、人を大胆にさせる。
しかしその人間くさい行動が、他の客から丸見えだったり、どうかすると会食相手にも気づかれていたりする。お酒が入る席は なおさら油断できない。
さて 平松さんの目撃談、三つのうち二つは女性がヒールのある靴を脱ぐ話である。ハイヒールが両脚に強いる緊張と疲労がどれほどのものか、経験のない私には想像もつかない。ただ、チャンスがあれば短時間でも脱ぎ散らかしたいものらしい。
下半身がすっぽり死角に入る会食の席は、なるほどチャンスには違いない。同席者がわざわざのぞき込んだり、急に立たされたりする心配はない。
これに対し、三つめの話に登場するテレビ界の男女はかなり大胆、というか図々しい。彼らにとって、平松さんは初対面に近い「お客さん」だろう。社費による接待かもしれない。そんな公式度が高い席で、それぞれ配偶者がいる二人がこっそり手を握り合う。私が平松さんなら 舐められたものだと思うし、一緒に仕事を続ける気も失せる。
平松さんは「もやもや」と優しく表現しているが、その実質は呆れや怒りと思われる。テーブルという目隠しに、大人は甘えてはいけない。
冨永 格
(2023年10月17日14時追記)一部、内容を変更しました。