リアルとバーチャル「やってはいけない」の境界線 識者に見解を聞く

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   アバター姿で交流するメタバース(仮想空間)では、現実なら不可能でも実現できることがある。ただ、人間同士が関わる以上は一定のルールやマナーが必要だろう。

   現実世界で法的・道徳的に「してはいけないこと」は、メタバースでもやはり不適切なのか。メタバースユーザーの水瀬ゆずさんに聞いた。ソーシャルVRアプリ「VRChat」を4000時間以上プレーし、「内閣府地方創生SDGs官民連携プラットフォームメタバース分科会」の副会長を務めるなど、VRの活用事例やユーザーの文化に詳しい人物だ。

  • 取材に応じた水瀬ゆずさん
    取材に応じた水瀬ゆずさん
  • バーチャルでもふざけてはいけないことも (cluster内バーチャル大阪から)
    バーチャルでもふざけてはいけないことも (cluster内バーチャル大阪から)
  • 取材に応じた水瀬ゆずさん
  • バーチャルでもふざけてはいけないことも (cluster内バーチャル大阪から)

大前提は「利用規約に従う」

   J-CASTトレンドでは以前、VR上に再現された複数の大阪・道頓堀の様子について伝えた。プロ野球・阪神タイガースの優勝決定時には、仮想空間で道頓堀川へ飛び込むユーザーが相次いだ。

   ただ大阪府・市がメタバースプラットフォーム「cluster」に公開している「バーチャル大阪」では、ユーザーが川へ飛び込むと、「バーチャルでも飛び込んだらアカンよ」との警告メッセージが表示される。このように、現実で禁止されている行為がメタバースでもとがめられるケースがある。

   水瀬さんは、4000時間以上プレーしてきた自身の立場から、VRChat上の行動規範や不適切な行為について見解を語った。

   大前提として、プラットフォームの利用規約に従う。VRChatだと13歳以上しかアカウントを作れない、わいせつなコンテンツは投稿できないといったさまざまな決まりがある。これに則ったうえで、「メタバース上でしてはいけないことは、ケースバイケースです」と話す。

「ファントムセンス」がキーワード

   まず、現実と同じように「他人を傷つけたり、いやがらせや権利を侵害したりする行為はもちろんNG」と水瀬さん。

   ここで、「VR感度」「ファントムセンス」という概念がキーワードになる。VR技術でメタバースを利用すると、仮想の世界に実際に入ったかのような体験ができる。アバターや空間への没入感が高まると、脳が錯覚を起こすことがあるという。これをVR感度、ファントムセンスと呼ぶ。

   これにより他人にアバターを触られると、実際に接触を受けているかのように錯覚を受ける人がいるという。剣など鋭い3Dモデルで突かれると不快だったり、「実際に『痛い』と感じ」たりするケースも。そのため「出会い頭に他人を殴る」ような、同意のない暴力的な行為をしてはならないとのことだ。痴漢行為も同様に、さわられた側は不快感を覚えるため不適切行為となる。

VRならではの「おふざけ」

   企業のキャラクターなどを勝手にアバター化したり、他人のアバターを無断で複製して使ったりするなど、制作物や著作権の侵害行為もVRではアウトだと水瀬さんは指摘。VRユーザーの間ではこうしたケースには注意し、「(著作権侵害行為は)なくそうと働きかける風潮がある」と言う。

   メタバースではアバターや空間、3Dモデルの制作など、単なる利用者にとどまらず「クリエイター側に回る人が多い」ため、権利意識が高い傾向があるのではと分析した。

   さて、「VRでは許される」としたらどんな行為だろうか。水瀬さんは、他人への傷害や侵害を伴わない「おふざけ」は、原則問題ないと考える。例として、「おじさん回し」というVRChat上にある遊びを挙げた。中年男性をかたどった3Dモデルを手に持って回し、最後は高所から地面に「おじさん」を突き刺すというアクティビティーだ。もちろん「おじさん」は特定のユーザーではなく、単なる3Dの物体。少々強烈に聞こえる「おふざけ」だが、ユーザーの間では「伝統芸能」と呼ばれ親しまれているようだ。

   他に「現実ではできないがVRだからこそできる遊び」は何か。記者が聞くと、「飛行機に搭乗し、撃ち合うこともできる。(VR上には)なんでもあるので、何かと言われるとむしろ難しい」とした。

   とはいえ、迷惑や被害を受ける人がいなければただちに「なんでもあり」、ではない。前出の通り、メタバース空間の運営側の定めに従うことが大前提。バーチャル大阪で飛び込みが禁じられているのは、その一例と言えよう。

   水瀬さん自身は「あまり(仮想の川へのダイブを)問題とは思わない」と考える。半面、当該ワールドが存在するclusterでは10代など若い年齢の人が比較的多いため、「(飛び込みを見た若い人が現実世界で)まねるケースがあってはならないとの配慮なのかもしれません」と推測した。

   なおJ-CASTトレンドが以前、バーチャル大阪運営の「未来大阪プロジェクト」担当者に取材したときには、国内外から訪れた人が、飛び込み行為が当たり前のことだと誤解を生まないよう禁止としているとの説明だった。

姉妹サイト