細田監督「僕だったら...」
3作目は思春期の葛藤を描く「ラナンキュラス」。自分の痩せた体型を嫌う「ユウ」は、メタバース上では理想の姿をしたアバターで過ごしている。しかしある日、SNS上で「ガリガリの子ってキモイよねー」など体型をやゆする投稿を目にして錯乱。「ここ(メタバース)ではそんなの気にする必要なんてないのに...」と吐露する。ユウが絶望するシーンで映像の色彩が乱れ、ノイズの入った白黒に切り替わる演出は圧巻だ。
最後は中年男性と少年がメタバース上で出会い、校舎の屋上で遊ぶ「おじさんと春」。36歳のおじさん「達也」が、目の前にいる少年の正体が実は亡き親友だと気付く不思議な物語だ。今を楽しんで生きる大切さを伝えている。
同作の制作チーム「VFmovieエンターテイメント」の松尾和弥さんによると、達也役の声優は生徒でなく、実際にN校の職員が「現役のおじさん」として担当している。上映会に参加した細田氏は、アニメ調のアバターにリアリティーある「おじさん」の声が吹き込まれるキャスティングに「このズレがいい」と評する。
細田氏は、いずれの作品も感心した様子で称賛。N・S校「新聞実行委員会」の生徒から、もしも細田氏の高校時代にメタバースが普及していたらどんな作品を作っていたか質問されると、「僕だったら途中で投げ出していたかもしれない」と冗談交じりに述べていた。
プロジェクトの所感を、角川ドワンゴ学園理事長の山中伸一氏に聞いた。生徒らはインターネットを通じて遠隔で協力して作品を制作しており、同じチーム同士でも「今日初めて(リアルで)会った」メンバーが多いという。「『オンラインコミュニケーション能力』がすごく付きましたよね」と感激した表情で語った。
プロジェクトの作品は今後、一般公開する方針だ。具体的な時期や公開手段は調整中とのこと。