蒸気機関車の運転を体験できる仮想空間が、メタバースプラットフォーム「VRChat」内に公開されている。自らを「鉄道オタク」と称するfrou01さんが制作するワールド「曙松鉄道曙松線」だ。
「VR蒸気機関車列車シミュレーター」を掲げ、2人以上でのプレーを推奨。リアルに運転方法を再現しており、発車させるだけでも操作はかなり難しい。
「しまった!」の理由
「曙松鉄道曙松線」は、5か所の架空の駅で構成されている。延長は14キロ(km)以上にも及ぶという。駅のホーム上には、駅員が機関士に手信号を送るための旗や、信号機を操作するレバーを設置している。
客車や、これをけん引する機関車は、実在のものを再現している。図書館などで調べ上げた図面資料を参考に使っている。今回は「国鉄8620形」という機関車と、「ナハ22000」という客車を連結させ、運転してもらった。
運転にまつわるギミックまで作り上げた機関車の運転室には、大量のレバーや計器が備わる。発車させるには、機関車の前進や後進の切り替えに用いる「逆転機」のハンドルを、時計回りに動かす。また、ブレーキにあたる「単独弁」や「自動弁」を運転に適した位置に回す。
逆転機の下にある「バイパス弁」や「シリンダー排水弁」を奥に押し込んだら、自動車のアクセルにあたる「加減弁」を手前に引く。後はシリンダー内の蒸気圧やボイラー内の水量を示す水面計など、さまざまな計器類を見て細かい調整をしながら運転していく。鉄道知識がなければ、まともには動かせないだろう。
さらに運転をしていると石炭や蒸気を消費するため、本来は機関士(運転士)を補佐する機関助士がボイラーの火室にスコップで投炭し続けたり、ボイラー内の水量を適切に保ったりしなければならない。
記者は運転方法がわからないため、frou01さんが機関士と機関助士役を兼任した。運転し、線路の分岐点や計器を注視しながら、石炭を入れ続けており、かなり余裕がなさそうだ。
「しまった!」
frou01さんが声を上げた。火室の燃焼が止まったのだ。何があったのかと聞くと、ボイラー内の水がいつの間にか減りすぎて、「溶け栓」というパーツが溶解してしまったという。この栓がなくなると、炎が吹き消されるのだ。
細かい部分まで再現しているあまり、気を抜くとこうしたトラブルもあるため、1人での操作はやはり難易度が高い。しっかり運行させるなら、少なくとも「機関士と機関助士、車掌、駅員」の4人が必要とのことだ。
作っていない箇所も「今のところは」
もともとプログラミングができるというfrou01さん。「物心がついたころ」からの鉄道好きもあり、知識を生かして鉄道のワールドをメタバースに作れるのではないかと考え、「VRChat」を始めたという。
「曙松鉄道曙松線」は、2021年8月ごろに公開し、その後もギミックを追加、約2年間手を入れ続けている。とはいえ特別なモチベーションがあるわけではなく、時には数か月放置してから、また制作を再開することも。のんびりとした趣味として取り組んでいるが、「そんなノリでこんなワールドが作れるのか」と驚かれることもあると話す。
現実の鉄道にまつわるあらゆる要素のうち、ワールドでは実現していない部分もまだある。
たとえば、実在の機関車で火室のフタを長時間開きすぎると、外気が混じって燃焼温度が下がる。このギミックは、ワールド内にはまだない。「さすがに再現はしていないのですね」聞くと、frou01さんは「今のところは」と答えた。まだまだ「曙松鉄道曙松線」は進化していく予定のようだ。