プロ野球・阪神タイガースが2005年以来、18年ぶりにセ・リーグを制した。優勝時には大阪・道頓堀に大勢のファンが押し寄せ喜びを爆発させるのが、半ば風物詩となっている。今年も道頓堀川へ飛び込む人の姿が報じられた。
ただ、前回優勝時とは大きく異なる点がある。仮想空間の「道頓堀」が登場したのだ。ここにもユーザーが押し寄せ、アバターの姿で川へダイブした――。
優勝決定前から人が集まる
メタバースプラットフォーム「VRChat」。ここに「VRChat関西部」というユーザーコミュニティーが制作、公開している「Virtual Dotonbori in OSAKA」(バーチャル道頓堀)という空間がある。おなじみ・グリコの看板の文字が「クリコ」だったり、「雪印メグミルク」が「雪卵ミクミルク」だったりと細かい違いはあるが、雰囲気は道頓堀・戎橋付近そのものだ。
阪神が優勝を決める前日の9月13日、バーチャルブロガーとして活動している燕谷古雅さんはX(旧ツイッター)に、「バーチャル道頓堀でダイブしよう集会」というイベントを告知した。開催日時は、「阪神の『アレ』が決定した」14日の22~23時だ。
このイベントはX上で拡散され、「VRの正しい使い方」「VR道頓堀なら飛び込んでみたい」などと試合前から話題になった。
記者は14日の阪神-読売ジャイアンツ戦の終盤21時ごろ、バーチャル道頓堀へアクセスした。試合は阪神がリードし、優勝目前となっている時間だ。
VRChatのワールドでは、実際にユーザーが入る空間のことを「インスタンス」と呼ぶ。ここには入れる人数に限りがあり、来場者が多いワールドでは、複数のインスタンスが存在する場合がある。バーチャル道頓堀の場合、1インスタンスあたり36人が限度だ。21時ごろの時点でユーザーが最も多いインスタンスは満員になり、2番目のインスタンスも19人が同時にアクセスしている盛況ぶりだった。
「アレ」の後に飛び込み続出
9回表、巨人の最後の攻撃。4-3で阪神が優勢だが、1アウト2塁でピンチとなった。バーチャル道頓堀の阪神ファンからは「アレ(編注:優勝のこと)できるのか?」「やめてくれえ~」と不安げな声がもれる。しかし最後、阪神・岩崎優投手が巨人打者を2者連続で打ち取ると、「アレした!?」「アレだあ~!」との歓声が一斉に響いた。
優勝決定後の22時、記者は改めて「ダイブしよう集会」へ向かった。阪神ファンやそうでない人も含め、イベントには20人以上が参加。テンションが上がった様子のユーザーたちは、思い思いのタイミングで飛び込んでいく。あくまで「バーチャル」での出来事だ。
現実でいう「かに道楽」がある側か、グリコの看板がある側か、どっちから飛び降りるか「こっちじゃなかったっけ?」と迷っている様子の人も。果たして「正解」があるかは不明だ。興奮したのか、1人で2回以上連続して飛び込むユーザーもいた。
途中で橋のグリコ側のふちに10人近くのアバターが立つと、ユーザー同士で「3、2、1」とタイミングをとり、集団で一斉に道頓堀川へ飛び込むシーンも。現実の道頓堀川へ飛び込むと当然危険だが、バーチャル道頓堀の場合は飛び込んでもワールドの入口にワープさせられるだけで済む。
「こんなにたくさん人が来るとは」
そしてユーザーの誰かが阪神の応援歌「六甲おろし」を流し、それにあわせて合唱がはじまる。「六~甲~おろしに~さっそうと~」と、うれしげな声が仮想空間に響いた。
イベントに訪れたVRユーザーで、大阪に生まれ育ったという「いとよ」さんに取材した。VRの道頓堀から飛び降りた感想を聞くと、「最高です。大阪の誇り、やっぱり阪神タイガースや」とのことだ。
今回の燕谷さんのイベント告知の投稿は600回以上リポストされるなど、一定の反響を集めた。「アレ」にあわせて道頓堀からの飛び込みイベントを実施すれば面白いのではと考え「軽い気持ち」で呼びかけたが、「こんなにたくさん人が来るとは」と驚いた様子だ。