企業や自治体作ったメタバースに入ったら「誰もいない」 ユーザー集客ねらうには(前編)

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   企業や自治体がメタバース(仮想空間)に参入する事例が増えている。自社製品、サービスや地方の魅力をアピールするため、オリジナルのメタバースプラットフォームを開発したり、既存のプラットフォームに独自の空間を公開したりするといったものだ。

   一方、こうした空間にアクセスしてみると「自分以外にユーザーがいない」という事態は珍しくない。どうすれば、ユーザーはメタバースに訪れ、定着してくれるか。メタバースコンテンツ制作に関わる2人の有識者に取材した。2回にわたってお届けする。

  • 仮想空間に来て誰もいないと(写真はイメージ)
    仮想空間に来て誰もいないと(写真はイメージ)
  • バーチャル大阪内の「新市街」エリア (cluster内から)
    バーチャル大阪内の「新市街」エリア (cluster内から)
  • 仮想空間に来て誰もいないと(写真はイメージ)
  • バーチャル大阪内の「新市街」エリア (cluster内から)

魅力的なイベント実施しても

   たとえば大阪・関西万博(2025年)開催を前に、2021年に大阪府と大阪市が、メタバースプラットフォーム「cluster」内に立ち上げた「バーチャル大阪」。大阪の観光地や都市空間を再現しつつ、大阪の魅力を国内外に発信したり、コミュニティーを形成したりするのが目的だ。

   日本一の漫才師を決める「M-1グランプリ2021」のパブリックビューイングや、楽曲アーティスト、VTuber(バーチャルユーチューバー)による音楽ライブなど、バーチャル大阪内ではさまざまなイベントを実施してきた。

   読売新聞オンラインの2022年10月24日付記事によると、21年12月には1か月で9万7000人が来場した。ところが、22年5月と6月には来場者が目減りし、月あたり5000人程度にとどまったという。あくまで22年当時の数字ではあるが、ユーザーを呼び込み続けることの難しさがうかがえる。

   記者も9月11日にログインを試みたが、3つあるバーチャル大阪の区画には、いずれも誰もログインしていなかった。同時にclusterの公式ワールドであり入口的な空間である「Cluster Lobby」を見ると、こちらには40人以上がログインしており、対照的だ。

   企業の例だと、製菓大手・ブルボンが大日本印刷の支援を受けて展開している「ブルボンメタバース」。23年6月29日にリニューアルオープンした。各所には同社のお菓子が設置されており商品の魅力に触れられるほか、メタバース内のクイズに答えることで応募できるプレゼントキャンペーンを展開してきた。テキストで会話できるチャット機能も備わっている。

   6月30日付の大日本印刷の発表によると、ファン獲得やファンコミュニティー活性化もこのメタバースの目的だ。ただ9月11日に記者がアクセスした限りでは、誰もログインはしていなかった。

メタバースでひとりになる「メタぼっち」

   メタバースに人を呼び込むのに必要な要素として、ひとつヒントになりそうなのが「メタぼっち問題」という言葉だ。特定のメタバースに入っても自分以外誰もログインしておらず「ひとりぼっち」になり、そのまま離脱する。こうした状況を表す言葉として、X(旧ツイッター)上で使われることがある。

   メタバースを通して日本の魅力を海外に発信するプロジェクト「Visit Japan」。その公式Xは9月7日、この「メタぼっち問題」とのフレーズについて言及。自分ひとりでメタバース入っても時間帯によっては誰もいない、あるいは人がいても話しかけやすい雰囲気でなく、疎外感を覚える問題として紹介した。

   一方で、同プロジェクトが公開しているメタバースの観光地「Visit Kyoto」では、団体でユーザーが訪れると一気ににぎわい、他のユーザーも盛り上がりの様子が気になり、さらに人が入ってくることがあるという。「人を呼ぶには、『まず人がいること』がひとつ重要なポイントなのかもしれない」とつづっている。

集客に力入れ続ける難しさ

   往来(東京都港区)の代表取締役・東智美(ぴちきょ)さんに取材した。メタバースのマーケティングや、VRChatを中心としたWorld(仮想の世界)プロデュースと制作を手がける。

   人が来ないメタバースだと、新たに訪れたユーザーが「ぼっち」状態となり、定着しづらくなる現象。これは、独自のメタバースプラットフォームを作る場合でも、あるいは「Cluster」のように既存のプラットフォーム内にワールドを作る場合でも、「多くの企画者やクリエイターが頭を悩ませるポイント」という。

   特に独自のメタバースプラットフォームを新規に作る場合、より集客が難しいと続ける。操作性の良さやコンテンツの魅力、コミュニケーションの楽しさや他人とつながれること。そして「常時人がいる」こと。これらのうちどれかが突出するか、すべてをクリアする必要がある。

   コンテンツの魅力には、相応の企画力や制作力、予算が。コミュニケーションの楽しさや、人とつながれるという要素をクリアする場合にも、強力なIP(知的財産)の活用や、イベントの企画と推進が必要で、やはりコストが必要だ。「なかなかそこまで継続する体力のある企業や自治体が少ないのが実情ではないでしょうか」

   すると既存のメタバースプラットフォーム「ロブロックス」、「フォートナイト」、「VRChat」など、すでに人がいるプラットフォームを活用するのが手軽だ。

   一方で、そこにはユーザーによる独自の社会が存在しており、その社会について理解し最適化したメタバースを作らないと、関心が得られないという。また、現実世界よりも新たな訪問可能スポットが増えるスピードが速く、流行がすぐに移る。そのなかで存在感を示し続けるのは難しいとう。

   結果として、毎年夏、冬に開催される世界最大のメタバースイベント「バーチャルマーケット」や、サンリオが21年12月、23年1月に実施したバーチャルイベント「SANRIO Virtual Festival」のように、「短期決戦のイベント方式で、コミュニケーションの密度を高める戦略が主流になっている」と分析した。

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