異常な酷暑 清水克行さんが「追体験は近い」とする昔人の苦心

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湿った不快感

   日本は「熱帯モンスーン気候に限りなく近づいている」と見る清水さん。熱帯モンスーンという気候区分は〈弱い乾季のある熱帯雨林気候〉で、国内なら小笠原諸島、海外ではインドネシアのジャカルタ、米国のマイアミ、台湾南部などが該当する。

   しつこく居座る夏を顧みれば、「熱帯」の二文字に違和感はない。気象庁によると、この夏の平均気温は過去最高になりそう。最高気温35度以上の猛暑日は東京も京都も過去最多。札幌でも8月下旬に猛暑日が出現するなど、国内にはもはや逃げ場がない状況だ。

   清水さんの短文は、日本の高温多湿と衣住の関係を歴史家の視点で論じている。衣食住は気候風土を正直に映す。独自の服装や住居が編み出され、進化し、渡来の風俗や文化も修正のうえ取り込まれた。上流階級の住まいは高温多湿を基準とし、庶民のそれは冬の寒さを意識したものになった、という指摘が興味深い。

   論考の主眼は、高温より多湿にある。乾燥地帯の、近景が霞むようなホコリっぽさはコーンスターチで再現できるが、ジメジメやジトジトを映像化するには、汗を拭ったり、せわしなく団扇を動かしたりと、演出にもうひと手間要る。

   湿った不快感...冷暖房が行き渡った現代人には想像が及びにくいが、温暖化を待つまでもなく エアコンを切ればたちまち追体験できる。快適生活に閉じこもるのは人間とペットだけで、気候風土はこれからも不都合なまま、そこに居続ける。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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