博物館の神話空間 中沢新一さんが読み解く 静かで頑強な抵抗

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人を救う力とは

   国立科学博物館の「経営」がそこまで綱渡りだとは知らなかった。立派な名称と、なりふり構わぬカンパ集めの落差に戸惑った人も多いだろう。しかし驚きはそこで終わらず、あっという間に多額の浄財が集まってしまった。

   この話から書き起こし、博物館の魅力や役割に言及する論考である。筆者のホームグラウンド、神話世界への引き込み方が浅くも強引でもなく、いい具合だと思う。

   博物館への共感は、施設に備わる「ミトロジーの磁場」のなせる業、静かだが頑強な抵抗への支持である...著者の考えを短くまとめれば、そういうことになろうか。

   中沢さんが博物館に秘められているという「どこか人を救う力」とは何だろう。

   ヒトは農業により定着し、やがて国に連なるコミュニティをつくる。そして歴史を記すようになると、次第に我が物顔で振る舞い始めた。戦争も環境破壊も、地球温暖化も核の脅威も食料不足も、言ってしまえば自業自得の危機である。

   そんな時代、博物館は見学の数時間にせよ、人間が弱い存在だった時代を思い起こさせる。自然への畏怖と、とうに忘れた謙虚さを取り戻させてくれるのだ。

   博物館が発する「静かで頑強な抵抗」は、我を見失った人間への警告でもある。それが時空を超えた特別な空間ならば、運営をより安定させるべく、国からの支援を手厚くすべきである。「科博」の顛末、一過性の美談に終わらせてはならない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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