VR(仮想現実)ゴーグルを着けた2人のテコンドー選手が、蹴りを突き出す。その動きは背後のディスプレーに映るアバターにそのまま反映され、仮想空間で互いの体力を削っていく。ゴーグルを外すと、片方は男性で、もうひとりは女性。こんな動画が、X(旧ツイッター)上で話題になっている。
これは「バーチャルテコンドー」というeスポーツ。2023年6月に、シンガポールで開催された「第1回オリンピックeスポーツウィーク」の競技として採用された。
まるで格闘ゲーム
「ワールドテコンドー」(旧世界テコンドー連盟)は、シンガポールのIT企業「Refracet Technologies」と提携したプロジェクトとして2021年に「バーチャルテコンドー」を発表した。体の動きを追跡する「AXIS」というRefract社の技術を使い、プレーヤーの体そのものをコントローラーとするeスポーツだ。
オリンピック公式サイトの説明によると、バーチャルテコンドーではヘッドセットや体の動きを追跡する機械を手足に付けて戦う。実際の接触は伴わない。仮想世界で蹴りを相手に当て、相手の「ヘルスバー」(残り体力を表示するバー)を削っていく。「性別、年齢、身体的な違いなど関係なく多くの人が平等に」戦えると説明している。
実際、第1回オリンピックeスポーツでは、地元シンガポールのユース(若手)テコンドー選手が8人(男性4人、女性4人)、そしてオリンピック出場経験を持つ選手が8人出場した。
金メダリストやオリンピックに複数回出場した選手がいる中、優勝したのは、14歳の若手ナイジェル・タン選手だった。準優勝は、女性のナタリー・トー選手だ。
試合の様子の動画を確認した。選手は両脇に1人ずつわかれて戦う。何もない空間に蹴りを放っているように見えるが、VRゴーグルを通して対戦相手の姿が見えているようだ。
背後の大型ディスプレーには、観客に見えるよう、格闘ゲームのように両選手のアバターやその動きが表示されている。両選手のヘルスバーや、その間に表示される制限時間90秒のカウントダウン表示もあいまって、その雰囲気は完全に3D格闘ゲームだ。
純粋に技術を競う
シンガポール国内の新聞「Today」(電子版)の23年6月25日付記事では、第1回オリンピックeスポーツを取り上げた。記事によると、バーチャルテコンドーにユース選手として出場したジェイドン・ユーさんは「(性別や体格に関係なく)純粋に技術に基づいて競争できるのは興味深い」と語っている。
ワールドテコンドー公式サイトの8月18日付記事によると、今後、バーチャルテコンドーの世界選手権が開かれる。第1回大会の開催地はオリンピックに続き、シンガポールだ。
同記事のなかで、ワールドテコンドーのチュ・チュンウォン会長は6月のオリンピックeスポーツウィークが成功に終わったことに触れつつ、「バーチャルテコンドーを世界に広めるのにこれ以上の開催地はない」とコメントしている。