ウエディングベールを上げ、愛の誓いをたてる新郎新婦。それを見つめる両親。そこはなんと、メタバース――。VR(仮想現実)ユーザーの「ranze256」さんは2023年8月8日、メタバースプラットフォーム「VRChat」を使い、バーチャル結婚式を開催した。
式場や披露宴会場をイメージした仮想空間内で、友人や式の運営スタッフが晴れの日を盛大に祝福した。ユーザーに若年層が多いイメージのあるメタバースだが、新郎であるranze256さんの両親までもアバターの姿で出席したのだ。
ブーケトスに余興まで
ranze256さんに取材した。企業と、メタバースで活動するクリエイターをつなげるサービス「バーチャルコネクト」を運営している。
新婦とは、VRChat内で知り合ったという。現実の結婚式だと費用がかさむ。加えて、夫婦ともにVRChatの友人が多く、互いに出会った場でもあることを考慮して、このプラットフォームで式を挙げることにしたと話す。
当日の様子は、YouTubeで配信。記者はアーカイブ動画を視聴した。舞台は白いチャペルのような建物。挙式の後、3Dモデルの花束でブーケトスをしたり、風船を空中に放ったりと、参加者らは和気あいあいと楽しんでいる様子だ。
式の後、披露宴会場へ移動。友人からの祝辞や、高砂席での写真撮影、新郎の知り合いであるヒップホップアーティストによる楽曲ライブと余興もバッチリだ。そして、新郎の父親による謝辞のスピーチ。感動的なBGMのなか、猫のような見た目のアバターが「2人の幸せが永遠に続くことを願っております」と述べた。
一連の流れは、現実の結婚式さながら。新郎や司会者をはじめ、参加者からはたびたび感極まった様子で涙ぐんだような声が聞こえた。
母親がVRユーザーと仲良しに
ranze256さんによると、父親の年齢は70歳で、母親は67歳。父親はメタバースについて、テレビ番組などで取り上げられているのを目にしていたためか、ある程度理解があったという。ただ母親は最近になって初めてスマートフォンを購入するなど、デジタルデバイスには明るくなかった。
ある日、ranze256さんは仕事の案件で、企業のインターンシッププログラムに対しVRChatを紹介するプレゼンテーションを行なった。そのリハーサルとして事前に母親を相手に発表を試したところ、メタバースに興味を抱くようになり、自身でVRChatをプレイするようになったという。こうして母親はranze256さんとのフレンド(メタバース上の友人)とも仲良くなり、結婚式に出席した。
結婚指輪は、メタバースに関連した仕事により得た収益で購入。式当日、誓いのキスの場で、「サプライズ」的に現実で指輪の交換を行なったという。
式は、メタバースで撮影した写真を現実で飾れるサービスを提供する「かえでラボ」がスポンサーとして開催。プログラムや演出、演者はranze256さんが自身でプロデュースした。
準備中、モデル制作者が体調を崩したり、マイクに関するギミックの調整に難航したりと、さまざまなトラブルに見舞われた。そのたびに関係者と協力して壁を乗り越え、無事挙式に至ったと話す。
仮想空間でも、参加者からは涙で「おめでとう」との祝福を受けたという。
「現実もしくはそれ以上に、この私達の結婚を祝ってくれる人たちが、このメタバースに存在しているという事実が一番印象に残りました」