2023年度後期の連続テレビ小説は「ブギウギ」だ。モデルは戦後の大スター、笠置シヅ子(1914~85)さん。「東京ブギウギ」や「買物ブギー」などで戦後の日本を元気にさせた人だ。作曲家の服部良一(1907~93)さんとコンビを組んで人気になった。
放送開始に先立ち、東京・神田の神保町シアターでは9月2日~29日、「銀幕に甦るブギの女王 笠置シヅ子と服部良一――ふたりのブギウギ時代」を特集する。
4作品を上映
上映されるのは以下の4作品。1949(昭和24)年の作品が多い。いずれも笠置シヅ子が出演し、音楽は服部良一。白黒、デジタル上映だ。
1.「銀座カンカン娘」(昭和24年、監督・島耕二、共演:高峰秀子、灰田勝彦、古今亭志ん生、岸井明、浦辺粂子)
2.「結婚三銃士」(昭和24年、監督・野村浩将、共演:上原謙、高杉早苗、森赫子、清川虹子、若原春江、清川玉枝)
3.「果てしなき情熱」(昭和24年、監督・市川崑、共演:堀雄二、月丘千秋、折原啓子、清川虹子、山口淑子、淡谷のり子)
4.「桃の花の咲く下で」(昭和26年、監督・清水宏、共演:日守新一、花井蘭子、北沢彪、大山健一、清川玉枝、柳家金語楼)
「銀座カンカン娘」は、隠居した落語家の家に居候する二人の若者(高峰、笠置)が主人公。芸術家としての活動費を稼ぐため、銀座で流しを始める。五代目志ん生の名人芸も超貴重だ。
「結婚三銃士」は、化粧品会社勤めの青年(上原)が登場する。上原は二枚目俳優として絶大な人気があった。失恋のショックから夜な夜なカフェー通い。彼を狙う三人の女性(高杉、笠置、森)は、抜け駆けなしの恋敵同盟を組むというストーリーだ。
「果てしなき情熱」は、場末のキャバレーを舞台に、落ちぶれた作曲家の恋と苦悩を描く。全編を服部良一のヒット曲が彩り、当時のスター歌手が次々歌唱を披露する。「桃の花の咲く下で」は、歌う紙芝居師の物語だ。
占領下の時代
映画が製作された当時、日本はまだ連合国軍に占領されていた(昭和20~27年)。しかし、敗戦のショックから立ち直ろうとしていた時代でもあった。
昭和24年は、湯川秀樹が日本人として初めてノーベル賞を受賞した。水泳の古橋広之進は、ロサンゼルスで行われた全米選手権で、400メートル(m)、800m、1500m自由形で1世界新記録を樹立。「フジヤマのトビウオ」(The Flying Fish of Fujiyama)というニックネームが付けられ、戦勝国の米国民を仰天させた。
映画界では、戦後の明るさを象徴する原節子主演の「青い山脈」が大ヒット。この主題歌を作曲したのも服部さんだった。
第一次ベビーブームに沸いていたが、国内は不況。国鉄の大量人員整理などで、不穏な情勢も続いた。下山事件、三鷹事件、松川事件と国鉄がらみの怪事件も起きていた。朝鮮戦争による特需で、景気が好転するのは昭和25年からだ。
戦後に息を吹き返す
笠置さんは香川県生まれ、大阪で育ち、戦前からジャズなどを歌って活躍し、ダンスを交えた躍動感あるステージで人気だった。しかし、戦況が悪化するにつれて、戦意発揚に直結しない笠置さんの歌は居場所を失っていった。
服部さんも戦前から、作曲家として活躍。とくに1937年の淡谷のり子『別れのブルース』は大ヒット。「蘇州夜曲」「一杯のコーヒーから」などもヒットし、洋楽を取り入れた「服部メロディー」を確立したが、やはり、軍歌全盛の風潮が強まってからは退けられていた。
戦前に知り合い、一緒に活動もしていた二人が息を吹き返すのは、戦争が終わってから。昭和23年に発売された服部作曲の「東京ブギウギ」が大ヒット、服部は笠置の楽曲の大半を手掛けた。少女時代の美空ひばりは、笠置さんの物まねで注目され、デビューした。
NHKの朝ドラでは、笠置さんをモデルとしているが、戦前戦後の激動の時代の渦中で、ひたむきに歌に踊りに向き合い続けたある歌手の波乱万丈の物語として大胆に再構成している。 登場人物名や団体名などは一部改称して、フィクションとして描く。
笠置役は趣里さん、服部役は草彅剛さん。そのほか、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎さんらが出演する。