世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット(Vket)」の「リアル」版イベントが、2023年7月29日~30日に東京・秋葉原で初開催された。「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」だ。
本来のVRイベントから、現実世界へ――。そこはさまざまな技術や企画、そしてユーザーコミュニティーが現実と仮想空間をつなぎ、重ね合わせる場となっていた。
香り漂う3Dドリンク
真夏の秋葉原の電気街を歩いていると、大量のアバターを映した巨大なディスプレーが目に入ってきた。現実世界の人々が、アバターに向かって手を振っている。Vketリアルのメイン会場・ベルサール秋葉原だ。この日は開催2日目の7月30日。VRイベント「Vket2023 Summer」の最終日でもある。
先述のディスプレーは「AVATAR MEETS(アバターミーツ)」というコーナーで展示されていたもの。そこに映る仮想空間は、メタバースプラットフォーム「NeosVR」内の会場の光景だ。
「リアル」側の来場者がこのディスプレーの前に特別な「マーカー」を付けて立つと、NeosVRの空間内に自分のアバターが出現。VR空間側の参加者と、アバター同士でコミュニケーションが取れるのだ。
「Cross Greeting ROOM(クロスグリーティングルーム)」というコーナーでは、新感覚のスイカ割りゲームが体験できた。来場者がVRゴーグルを被ると、現実の映像に重なる形で、別室のリアルVketスタッフが操作するアバターの姿が見える。
ただし、スタッフ側は現実世界の様子がわからない。現実にあるスイカ型の風船が割れるように、このスタッフを音声通話や身振り手振りで誘導するという、MR(複合現実)技術を駆使した企画だ。
「VRショットBAR」コーナーでは、バーテンダーとして大型ディスプレーに映ったVTuberが接客。好みのカクテルやパンケーキを注文すると、VTuberが3Dのメニューを持ってきてくれる。接客するクリエイターはシフト制で、記者のときはVTuberの「おきゅたんbot」さんが対応してくれた。当初はカラフルなドレスな装いだったが、途中で「お着換え」。2~3秒で、バニーガールの姿に変身した。早着替えはメタバースならではだ。
ドリンクやフードは実際には食べられないものの、裸眼で立体的に見えるソニーのディスプレー「ELF-SR2」に映し出さる。3Dながら、実際に目の前にあるかのような臨場感だ。
またソニー独自開発の「におい制御技術」より、嗅覚にもアプローチ。ファンのような機械から、メニューをイメージしたにおいが空気中に放出されるのだ。パンケーキを注文すると、甘いにおいがあふれてきた。
オフ会のような面も
ベルサール秋葉原の地下には、リアルとVRで活動するクリエイターが出展する「パラリアルクリエイターエリア」と、VR上でイベントなどを運営しているコミュニティーが出展する「バーチャルコミュニティーエリア」というコーナーが設置された。
バーチャルコミュニティーエリアは、普段はVRで出会っているユーザー同士が「オフ会」のように集まっている側面も。
たとえば「私立VRC学園」という出展者。普段は、メタバースプラットフォーム「VRChat」上で仮想の学園を運営している。現実の学校のようなクラス分けのもと、参加者がVRChatの楽しみ方を学ぶイベントだ。
ブース内で説明を担当している「せと。」さんによると、ブースに来る客の約7割が、VRC学園にアバターの姿で来ている関係者という。ともにブースを運営している「シノシノ」さんとも、メタバース上では数年の付き合いがあるが、現実では今回初めて出会ったと話した。
Vketを運営するHIKKY(東京都渋谷区)代表・舟越靖さんに話を聞いた。VR側とリアル側双方の関係者が一斉に集まり、「(現実と仮想空間)両方で遊べる状態を作り、それをスタンダード」にする。これが同社の目的という。
今回は仮想空間側のクリエイターや参加者、そしてリアル側の来場者が一同に会し、互いに仲良くなっている姿を見かけるという。「もう、たまんないですよ」と興奮した様子で語った。
今後は秋葉原以外での場でのリアルイベントの展開を考えている。2023年冬には、渋谷を舞台に実施する方針という。今回のイベントに加えて集客や販促、商品に直結したプロジェクトに移行し、リアルの街を巻き込むかたちで展開していくとのことだ。