このワールドはお祓(はら)いを済ませておりません――。こう名付けられた仮想空間が、メタバースプラットフォーム「VRChat」上で公開されている。
VRChat内の説明文には、「お盆の親戚の家をイメージした懐かしい雰囲気」のワールド(世界)とある。一方、文末は「二階には絶対に上がるな」と意味深で!?
2階の箱を開けると
「このワールドはお祓いを済ませておりません」は、昭和の空気を感じる民家。1階には、和室や土間が広がる。居間には、YouTubeの映像を鑑賞できるディスプレーを設置。横の部屋では麻雀が楽しめる。
しかし3組の布団が敷いてある寝室の天井には、「封」と書かれた札が何枚も貼られている。「これはおしゃれな飾り、デコレーションです」と取材に語るのは、この空間の制作者であるワールドクリエイターの浜名湖なこ氏だ。
札の上に何があるのか。土間から階段を上がり、真っ暗な2階へ向かう。設置されている手燭(てしょく)を持ち、明かりを灯す。壁際に近づくと般若などの能面が6面ほど飾られているのが目に入り、ぎょっとする。
2階奥には、大量の札が貼られた木製の壁がある。手前に置かれた棚と壁の間を進むと、向こう側へ通れる。そこはまたも真っ暗な空間。床に、ポツンと木箱がある。VRコントローラーを向けると、「開けるな」とのコマンドが表示される。
箱の中身は日本人形。開けた瞬間、「呪い」が降りかかる。視界にノイズが走り、血の色の手形が無数に出現し、うめき声が響く。あわてて引き返すと、先ほどの能面が飛んできたのか、びっしりと棚に貼り付いている。
階段を降りようとすると、1階の床で、子どもの幽霊がこちらに手を伸ばして待ち構えている。近づくと消失するが、1階は薄暗く各所で怪奇現象の起きる空間に変わり果てている。
恐怖空間の果てに
麻雀部屋の「役」一覧表は血塗られ、玄関の向こうでは口が縦に異様に伸びた怪物がこちらを覗いている。土間から屋外へ出ようとすると、「ブーン」との羽音が鼓膜に響く。音のする方を向くと、腐敗した肉のようなものが詰め込まれたゴミ箱に羽虫がたかる。
手蜀を持って外のエリアを進むと、文字が黒く塗りつぶされた墓石が置かれており、うめき声が聞こえてくる。墓を通り過ぎると、突然、目の前に人の姿が。よく見るとここには鏡のギミックが設置されており、自分のアバターが映っただけだと気付く。安心して家の方を振り返ると...。
ワールドのエピソードを聞いた
浜名湖さんによると、このワールドはもともと「オカルトナイト」という名前で、2022年10月ごろから、23年5、6月ごろまで公開していた。訪れた人同士でホラー動画を鑑賞するのを趣旨としたワールドだ。ただ動画に関連した機能の管理に苦労していたため、公開を停止。利用者からの惜しむ声を受けて名称を変更し、ギミックの追加や修正を経て7月24日に改めて公開した。
初期のオカルトナイトのギミックにはホラー要素はなく、2階には何もなかったという。2階に何を配置するか考えたときに「呪いの部屋にし、いわくつきの人形を置いたら面白いのでは」と思いついたのが、ホラー色を強めたきっかけだ。こうしたギミックを増やすうち、ホラー要素がメインになったとのことだ。
ほかにも「落ちている飴にカメラを向けるとファインダー越しに異形の手が見える」「鏡越しに化け物が見える」「ワールド内のポラロイドカメラで心霊写真が撮れる」など、細かな仕掛けが多数用意されている。
箱を開けなければ怪奇現象は起きず、自由にくつろげる空間だ。ホラー目的で来てもいいし、まったりできるホーム(拠点)ワールドとして訪れてもいい。「選択肢に幅のあるワールドと思ってもらえれば」と浜名湖さん。
こんな話もある。「オカルトナイト」時代のある日、ツイッターにて利用者から浜名湖さんにメッセージが寄せられた。この利用者がワールド内のディスプレーで映像鑑賞していると、VRゴーグルの視界の端に女性の顔が映り込んだのだという。浜名湖さんは「そんなギミックはありませんよ」と答えたとのことだ。