「日本の良識はまだ健在だ」
さらに3人の大きな共通点は、自身の戦争体験にこだわったことだ。
森村さんは1981年、ノンフィクション「悪魔の飽食」を発表。闇に包まれていた旧日本軍の関東軍防疫給水部(731部隊)の実態に迫り、社会に衝撃を与えた。
西村さんはトレインミステリーの大ヒットで、エンタメ色の強い作家となったが、2017年に自伝『十五歳の戦争――陸軍幼年学校「最後の生徒」』を刊行、戦争への思いを書き残した。「特攻」「玉砕」作戦や、東條英機の「戦時訓」を痛烈に批判している。
内田さんは、折々の社会問題や政治問題について、しばしば全国紙などに投書し、自身の思いを訴えていたことで知られる。
2015年6月9日には、毎日新聞「みんなの広場」に投書している。「押しつけではなかった憲法」という見出しがついている。衆院の憲法審査会で憲法学者3人が「安保法制は憲法違反」だと表明したことについて、「日本の良識はまだ健在だ」と胸をなで下ろし、改憲論者が「押しつけ憲法だから」ということを改正理由に挙げることに疑問を投げかける。
「むしろ、帝国主義と軍国主義のもと、一方向しか見えていなかった国民に、広い視野と新たな価値観を与えてくれた贈り物として、大切にしていきたいものである」と記していた。
内田さんは2018年に83歳で、西村さんは22年に91歳で亡くなった。森村さんも鬼籍に入ったが、それぞれに重い戦争体験を背負い、昭和から平成の時代を駆け抜けた3人の作品は、これからも読み続けられるに違いない。