オレンジページ(7月18日号)の「ちょっと角の酒屋まで」で、角田光代さんが空港で没収された食料品のあれこれについて書いている。
「飛行機に持ちこめないものは、高圧ガスだとか火薬類だとか毒物類だとか、あんまり日常的でなかったり...自身の日常生活に縁のないものだったりする場合が多いので、悩むことは少ない。よくわからないのは食品だ。とくに海外の旅...」
食品についてのルールは、角田さんも「なんとなくはわかっている」。とはいえ食べ物の種類はほぼ無限だし、パッケージも瓶詰、缶詰、箱入り、袋入りといろいろだ。国ごとの細かな規則まで頭に入っている旅行者は、まずいないだろう。
「海外の旅で私がもっともよく買うのは 調味料を含めた食品なのである。その『なんとなく』の知識で乗り切ろうとしているから、失敗が多い」
海外で買い物をするとき、角田さんは何も考えず、純粋に楽しむのが常という。機内に持ち込めるかどうかを考えずに買い込んでしまい、保安検査場で没収される段になって反省する...その繰り返し。ならば手荷物ではなく預け荷物のほうに入れればいいのだが、海外でもスーツケースを持たずに動くのが角田流らしい。「没収され、廃棄ボックスみたいなものに食材や調味料が入れられていくのを、かなしく見送るのみだ」。
無国籍の料理
先日もソウルで空き時間を買い物に費やした挙句、購入品の半分以上を保安検査で止められたという。レトルトのスープやお粥、ごま油、瓶入り調味料の数々。海外旅行はコロナ禍で4年のブランクがあり、持ち込み制限のことをほとんど忘れていたそうだ。
ここで突然、やけくその...いや奇抜なアイデアが提案される。
「いつかフードロス(減少)運動がもっとさかんになって、空港内に『没収食堂』ができないかとこのごろ考えている。私のようなおろかな旅人から没収した調味料と食材を使ったフュージョン(無国籍)料理レストランで、支店は各国の空港内にしかない」
没収物のすべてが廃棄されるのかどうか知らないが、万事SDGsの世にはあながち冗談でもない。さすがに食材が没収物だけでは無理があるが、大手エアラインでつくる国際航空運送協会(IATA)あたりがその気になれば事業化は夢ではない。
「自分の買ったものではないとわかっていても、私はかつての没収記憶と照合しながらメニュウをすみずみまで眺め、出てきた料理を『あのときのタコキムチ』『あのときのオイスターソース』『あのときの生ハム』とむせび泣きながら食べるだろう」
反省と後悔の「ぼっちめし」である。
「そしてそれは、空港の外で食べるどんなすばらしい料理よりも、かなしいくらい印象深く心に刻まれるはずだ」