俳号のススメ 夏井いつきさんは「違う自分をキープしよう」と

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もう一人の私

   俳号をめぐる記述で新鮮だったのは、句作しないで名乗ってもいいという視点だ。「とりあえず俳号」の軽いノリ。「号」の字が畏れ多ければ俳名と言い換えればいい。まずは名乗ってみる、作品はあとからついてくるというわけか。

   夏井さんは俳号の効用を「違う自分を手に入れる」と説く。それを名乗ることで、俳句を詠むもう一人の自分にスイッチが入る、といった感覚らしい。

   やみくもに勧めるだけでなく、どう考案すればいいのか、避けるべき名についてもアドバイスしてくれるのが夏井流のサービス精神だ。

   「月下美人」などがいけないのは、自慢と独善が鼻につくからだろう。逆に、自虐が匂う「とんだ豚女」がまずいのは、呼ぶほうの身にもなりなさいという戒めである。

   趣味をヒントにというのは納得できる。私の場合は料理と散歩、スポーツカーあたりだから、五音しばりでも「鍋あるき」「風来ぱん」「幌はずし」「二座ばりき」など、軽薄な案だがいくらでも浮かぶ。なるほど、実名発信より冒険はできそうだ。

   人生で「別の名前」を持つ機会はそうない。私は開設10年となるツイッターの実名アカウントに、「たぬちん」なる別称を付している。これも、叶わぬ匿名願望のなせるわざだろうか。たまに川柳などをひねったら、それを使ってみよう。

〈俳号が決まり まだ見ぬ我に逢う〉 たぬちん

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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