俳号のススメ 夏井いつきさんは「違う自分をキープしよう」と

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   女性セブン(7月13日号)の「パパイアから人生」で、テレビにも出る俳人 夏井いつきさんが「俳号」を持つことを勧めている。もう一つの名で別の自分が手に入る、非日常を味わうことができると。

「俳句を始めた人たちに『まずは俳号を』とオススメすると、『いやいやとんでもない』と尻込みする...茶道や華道や日本舞踊みたいに、お師匠さまから頂戴する雅号というイメージが強いからだろうか」

   筆者によると、俳号は師からもらうより「各々が考え、勝手に名乗る」のが一般的。それでも初心者は「畏れ多い」と構えてしまう。よくわかる。もちろん実名での句作も構わないが、夏井さんは「本名でやってると、コケた時が痛いよ」と追い詰める。そして、俳句は一生作らなくてもいいから俳号だけでも決めてみたらと、もうひと押し。

「俳号を付けることは、自分ではない自分を手に入れる、つまり非日常を手に入れること...俳句という名の『どこでもドア』を開く鍵が、俳号なのだ...ラジオネームやハンドルネームみたいに...一つ持っているだけで、違う自分を一人キープしている気分になれる」
  • 俳号を付けることは、非日常を手に入れること
    俳号を付けることは、非日常を手に入れること
  • 俳号を付けることは、非日常を手に入れること

趣味からひねる

   とはいえ、俳号そのものが非日常の存在だけに、どう付けたらいいのか戸惑う向きも多いはず。そんな人には夏井さん、とりあえず趣味や好物を尋ねるそうだ。

   例えば番組で接する女性アナウンサー。学生時代にクラリネットをやっていたと知り「くらり」になった。サイクリングが好きなディレクターは「ペダル」。火を見ていると落ち着く、という音声マンには「焚火」という名を贈っている。

「彼らは俳句なんて未だに作ってないと思うが、会う度にこの俳号で呼ぶと、ちょっとくすぐったい顔をする。それは、ちょっと晴れやかにも見える」

   夏井さんの句友、松本だりあさんのように、花の名を号にする人も多い。松本さんと同席すると、心がダリアのようにポンポン弾んでくるそうだ。ただし「虞美人草」「月下美人」は要注意。公衆の前でそう呼ばれる覚悟が甘いと、妙な重圧を背負う羽目になる。自嘲系、自虐ネタの俳号も好ましくないという。

「『ハゲ山親父』だの『とんだ豚女』だのと自分が呼ばれること以上に、句友としてこちらがその名で呼ばねばならぬことを想像して欲しい」

   自分で愛せるのはもちろん、呼ぶ側とも認め合える号が理想である。

   夫を亡くした悲しみから「一人ぼっち」を自称し、夏井さんのラジオ番組に投句を続けた女性がいたそうだ。毎回その俳号を口にするのが切なく、心を癒せるものに変えてはどうかと放送中に提案した。すると次の回から「笹百合」を名乗り始めたという。

「古里の山に咲く花だと書き添えられていた。『笹百合さん』と呼びかける時、私の心にも優しい笹百合の光景が広がる」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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