寿司と団扇 壇蜜さんは新郎新婦の初仕事に「扇ぎ合い」を提案

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   週刊新潮(6月15日号)の「だんだん蜜味」で、タレントの壇蜜さんがウチワの話を書いている。内輪話ではなく、涼風を送る団扇である。

   導入部はグラビアアイドル時代の思い出だ。彼女は新人の頃から、肌の露出が多い撮影のほうがむしろ暑いと体感していた。強い日差しのせいだ。

「休憩時間にはタオルやパーカーを羽織った方が涼しく感じるし 汗も出にくい。夏だといって、薄着でいれば良いってもんじゃあない」

   もっとも、新人とはいえデビューが遅く、三十路を前にしていた筆者、本格的な水着仕事がそれほど多かったわけではないようだ。

「砂浜や海中でキャッキャとはしゃぐより、浴衣姿が多かった。和室で浴衣を着崩すと、中身は赤裸々な水着姿...的な展開だ。小道具は団扇が多かった。『扇いであげるよ』と言わんばかりの、団扇を駆使した煽情的な視線や仕草を求められたものだ」

   編集者はいわゆる「大人の色気」を狙ったのだろう。読者からは〈団扇の脇からのぞく身体や表情で余計に熱くなる〉といった「ありがたい意見」も届いたという。まったく男ってやつは単純だ...と呆れる間もなく、話題は転換する。

「団扇と言うと、幼い頃に祖母と作ったちらし寿司を思い出す」

   この連載、食にまつわるテーマがお約束だから、いよいよ本題である。

  • ひと口で「あーん」は難しい?
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いなりで「あーん」

「当時、夏になると広告を印刷した団扇をもらう機会が多かった。酒屋、中華料理店、居酒屋、ヘアサロン...流行だったのだろうか。扇げど扇げど、我が身は涼しくならなかった。それでも祖母の手伝いで種類の豊富な"広告団扇"を駆使して、ちらし寿司のあったかご飯を混ぜ混ぜするのはスキだった」

   壇蜜さんはここで、ある女性漫画家の逸話を引く。彼女、いなり寿司を独りで作ろうとして 扇ぎ手がいないことに気づき、寿司というものは混ぜる人、扇ぐ人の最低二人で作るものなのかと愕然とする。結局は扇風機の助けを借りたが、風力が強すぎるとご飯の乾燥が早まるので扇風機はNGという説もあるらしい。

   話題はさらに展開し、結婚披露宴での演出に移る。

   新郎新婦が「初めての共同作業」としてケーキに入刀し、互いに食べさせ合う赤面の儀式がある。壇蜜さんは、これを寿司作りでやることを提案するのだ。すし飯を混ぜる係と、扇いで冷ます係。いなりなら一緒にこしらえ、ちらしなら共に盛りつけ、互いに「あーん」と食べさせてはどうかと。

「見栄えというのか『一緒にやってまっせ! これから一緒にやってきまっせ!』感が強調される気がする。誓いの言葉『病める時も健やかなる時も扇ぎ合うと誓いますか?』の後は、『いなり、入米です!』だったりして」

体験という土台

   オチの入米(にゅうまい?)はやや苦しいが、ウェディングケーキをいなり(ちらし)寿司に換えるというのは面白いアイデアだ。新郎新婦に寿司屋の縁故者がいれば、もうどこかで実行されているかもしれない。いなりでもちらしでも、あらかじめ人数分を用意しておけば、宴中の儀式は形式的なもので済む。ケーキに比べ地味だが、広まればコメ消費にも貢献するからJAあたりが関心を示すことは...ないか。

   グラビア撮影の小道具に使った団扇から、寿司の話に展開していく壇蜜さん。間もなく400回となる長期連載らしく、手慣れた筆致である。自身の経験という強固な土台があるので、終盤、新婚セレモニーへの「飛躍」もそれほど浮いた感じはない。

   確かに、酢飯づくりを単独でやると忙しい。硬めに炊いたご飯が熱いうちに、酢を加えながら切るようにして混ぜ、扇いで味を定着させる。すぐに冷ますのは、蒸気がこもってべちゃつかないようにするためらしい。出来上がれば同じようなものだが、味にこだわるなら混ぜにも扇ぎにも手は抜けない。複数での作業にはそれなりに理がある。

   恒例で連載に添えられる一句は〈あおぐたび 広告チラつく団扇かな〉

   では私もひとつ...〈つまむたび 壇蜜想う稲荷かな〉

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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