体験という土台
オチの入米(にゅうまい?)はやや苦しいが、ウェディングケーキをいなり(ちらし)寿司に換えるというのは面白いアイデアだ。新郎新婦に寿司屋の縁故者がいれば、もうどこかで実行されているかもしれない。いなりでもちらしでも、あらかじめ人数分を用意しておけば、宴中の儀式は形式的なもので済む。ケーキに比べ地味だが、広まればコメ消費にも貢献するからJAあたりが関心を示すことは...ないか。
グラビア撮影の小道具に使った団扇から、寿司の話に展開していく壇蜜さん。間もなく400回となる長期連載らしく、手慣れた筆致である。自身の経験という強固な土台があるので、終盤、新婚セレモニーへの「飛躍」もそれほど浮いた感じはない。
確かに、酢飯づくりを単独でやると忙しい。硬めに炊いたご飯が熱いうちに、酢を加えながら切るようにして混ぜ、扇いで味を定着させる。すぐに冷ますのは、蒸気がこもってべちゃつかないようにするためらしい。出来上がれば同じようなものだが、味にこだわるなら混ぜにも扇ぎにも手は抜けない。複数での作業にはそれなりに理がある。
恒例で連載に添えられる一句は〈あおぐたび 広告チラつく団扇かな〉
では私もひとつ...〈つまむたび 壇蜜想う稲荷かな〉
冨永 格