看護師が医師の仕事を一部代行 「タスク・シフト」拡大するか

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   医師の業務の一部を看護師に移す「タスク・シフト」という構想が動き出している。2023年6月1日、政府の規制改革推進会議が、今後取り組むべきだとする規制改革案の一つとして公表した。これは6年前に亡くなった日野原重明・聖路加病院名誉院長(1911~ 2017)が長年、言い続けていたことだった。

  • 「タスク・シフト」はどこまで進むのか
    「タスク・シフト」はどこまで進むのか
  • 「タスク・シフト」はどこまで進むのか

想定通りに進まない

   朝日新聞によると、政府の規制改革推進会議は6月1日、今後取り組む263項目の答申をまとめた。人手不足対策として、医師の業務を看護師に移すなどの「タスク・シフト」を明記したほか、人工知能(AI)を使った医療機器の開発促進などを盛り込んだ。政府は6月16日、実施計画を閣議決定した。

   同紙によると、医療従事者は、法律で業務の範囲が決められている。看護師は医師の指示のもとで一定の医療行為はできるが、さらに難易度の高い特定の医療行為については、国の研修を受講した看護師が担える制度がある。2015年に始まったが、研修が長時間に及ぶなどの理由で普及が想定通りに進まなかった。

   コロナ禍での医療逼迫(ひっぱく)を受けて受講者は昨秋6000人にまで増えたが、それでも政府が目標に掲げる25年度に計10万人という目標には遠い。24年度中にも、一部の研修を医療現場での実地で評価する仕組みに替えるなどして受講しやすくする。また、投薬や検査など看護師が担える業務を明確にした上で、その範囲を広げることも検討するという。

「医師としての基礎は看護師が教えてくれた」

   この「タスク・シフト」に類することは、日野原重明・聖路加病院名誉院長が以前から強く主張していた。

   日野原さんは生前、医療の分野ではさまざまな制度改革に粘り強く取り組んで大きな成果を上げてきた。「成人病」から「生活習慣病」への名称変更には約30年、臨床研修の必修化には約20年かかったという。

   そして、しばしば看護師についても言及。「私の医師としての基礎は看護師が教えてくれた」「15年以上のキャリアを持った看護師と学校出たての医師と比べた場合、どちらが人を救う力があるか明白」などと語り、医師不足への対応策として、能力と意欲がある看護師にさらに高度の教育を施し、医師業務の一部を分担してもらう新制度づくりを、熱心に訴え続けていた。

   日本医療政策機構のインタビュー(2007年11月1日)では、「米国では麻酔の8割は、麻酔学の知的並びに臨床能力の訓練を受けた看護師による処置でまかなっています」「日本では、麻酔医が足りないと騒いでいる一方で、学会が『麻酔のできるのは医師だけ』という壁をかたくなに守っている。麻酔の大部分は、看護師でもできるものなのに」などと語っていた。

給料が増えないのに責任が増える

   Yahoo!に掲載された朝日新聞の記事には、医療関係者を中心に1200以上のコメントついている。

   医師で中央大学大学院教授の真野俊樹さんは、「海外においては、ナースプラクテショナー(NP)といういわば上級看護師という資格や、フィジシャンアシスタント(PA)という医師の手術のサポートをしたり簡単な手術を自ら行ったりできる資格があります。日本でもこの資格を認めるべきという議論は以前からあります。ただ、日本人の保守性で、医師は仕事を外だししたくない、看護師は新しい仕事をしたくない、といった感じでなかなか進捗していません」と解説。

   看護師事情に詳しいと思われる人からは、「認定看護師などになって苦労が増えるだけ、給料は増えない、サービス残業が増えるだけで誰がしようと思うのか。他の国では看護師は高級取りで安定している。日本は初めこそ給料は高いがそこからの昇給は転職する方が高くなる。それでも責任が増える割には低すぎる。ましてやコロナ禍でどれだけの負担が増えたか、それでも減らされた給料。看護師は国や病院などのご奉仕ロボットではない」という不満のコメントも。

   日本医師会のニュースポータルサイトによると、日医の釜萢敏常任理事は5月24日に記者会見を行い、ナースプラクテショナー(NP)については、「アメリカのように医療現場で役割を担っている国もあるが、国によって医療提供体制は異なり、日本で本当に必要であるのか、しっかり検討する必要がある」と指摘している。

   「タスク・シフト」は簡単ではなさそうだ。


(2023年6月19日10時追記)内容を一部修正しました。

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